利用者や患者からの暴言暴力、理不尽で高圧的なクレームについてのご相談は多く受けますが、「どうしてもクレーム対応が苦手で、すぐにパニックになり落ち着いて対応ができない」という困りごとを抱えている人にお会いします。
クレーム対応の勉強をして、言うべきこと、とるべき対応は理解した。手帳に書いて持ち歩き、すぐに読めるように準備した。
それでも、どうしてもうまくいかなくて、怖くていつも頭が真っ白。
同僚は「怖かったー!ほんとにどうしようかと思ったよー」なんて言っているけど、それでもだいぶ落ち着いて対応している。
なぜ、私にはあれができないんだろう。毎回毎回頭が真っ白で、どうにもならないよ…。
あなたもそんな悩みを抱えていませんか?
今回のブログではそんな辛い悩みを持つ方に向けて、頭が真っ白になる理由と対処法を解説します。
「頭が真っ白になる理由」とは。
まずは、よく言う「頭が真っ白状態」はなぜ起きるのかを説明します。
まず、こちらを見てください。
野生の動物をイメージしてもらえればすぐにわかると思いますが、動物は敵に遭遇した時、生き延びるために「戦う」か「逃げる」かの二択で行動しますよね。
勝てそうな相手ならば戦う。勝ち目がなければ命を守るために必死に逃げる。
生存するためにはこの二つの選択肢が必要なのです。
では、質問です。
動物が遭遇した敵があまりにも強大で、「戦う」ことも「逃げる」こともできない時、動物はどうすると思いますか?ここでスクロールを止めてちょっと考えてみてください。
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戦うことも逃げることもできない時、動物は「固まる」
実は、「戦う」と「逃げる」以外に、もう一つ別の選択肢があります。
それが、「固まる」です。
あまりにも強い恐怖で圧倒され、逃げることもできない時、動物は固まるのです。
敵に捕食されるとき、できるだけ痛みを感じない方が楽です。だから、体のスイッチを切ります。恐怖の感情もいりませんし、あれこれ葛藤しても無駄なので、思考と感情のスイッチを切ります。
パソコンで例えればスリープモードに近い状態になります。
まさにクレーム対応で「頭が真っ白」になっているあなたの状態に近いのではないでしょうか。
やるべきことは整理したつもりなのに、思考は混乱しまとまらない。
そして体が震え、力が入らない。言葉もうまく出ない。
自分が自分でなくなってしまい、なにもできない。ただただクレームが終わるのを待つだけ。
「蛇に睨まれた蛙」状態です。
このようにして固まる癖がついてしまうと、「固まる」→「より傷いてクレームが怖くなる」→「固まる」の悪循環に陥ります。
だから、頭ではわかっていても、クレームという刺激を受けるとあなたの中で勝手にセキュリティが発動し、固まってしまうのです。
固まりやすい人の特徴とは?
では、固まりやすい人とそうでない人の違いはなんでしょうか。これについて説明します。
まず、ちょっと想像してみましょう。
あなたは今まさに、職場で上司からひどいパワハラを受けています。周りは誰も助けてくれず、上司の説教はまだまだ続きそうです。
ここで考えてみましょう。
あなたがこの上司のパワハラから今すぐに抜け出すためには、何をすればよいでしょうか?
これもぜひ、スクロールを止めて考えてみてください。
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わかりましたか?正解は至ってシンプルです。
上司のパワハラから抜け出すためには、そこから走って逃げれば良いのです。
そして、イヤならもう明日から会社に来なければそれで終わりです。もうパワハラを受けることはありませんし、イヤな上司の顔を見ずに済みます。
そうですよね?
「そんなことできるわけないでしょ?!」と思うのはごもっともで、このような行為は社会的に許容されることではありません。とても非常識な行動だと非難を受けることになります。
でも、社会的にどうかというよりも、動物としては正解なのです。
生存するために、戦うことができなければ今すぐに走って逃げる。周りからどう言われようと、自分の身を守るために行動する。
このような選択肢を持ち合わせている人は、大変な状況に追い込まれても心にどこか余裕があります。
一方、「戦う」ことも「逃げる」ことも選択肢にない人は「固まる」の一択です。
固まりやすい人は、日常的にネガティブ思考の方が多く、人間関係に対する無力感や不全感も強く持っています。
あなたもそのような傾向がないでしょうか。
「なんとかなるさ」という感覚を取り戻す。
固まりやすい人は、とにかく真面目な方が多い印象があります。
「こうあるべき」「ねばならない」と考えて自分を追い込こむとに加え、人間関係で悩んだ時は「私さえ我慢して済むなら我慢しよう」「どうせ言ったって無駄だし」と諦めます。
自分を抑えてできるだけ穏便に済ます癖がついているので、無力感や不全感がくっついて離れません。
「仕事をやめたらきっと次は決まらない」
「私を雇ってくれるところなんてどこもない」
こんな風に、先を悪く考えることも癖になっている方が多いのですが、選択肢を自ら減らしていれば固まりやすくもなります。
余談ですが、私は「転職経験がそれなりにある人の方が心に余裕があるな」と常日頃感じます。
転職は確かに大変ですし、うまくいかないことも少なくありません。でも、「なにかあったらやめればいい」という選択肢を持てる人とそうでない人では、やはり心持ちがだいぶ違うのだと思います。
もしもあなたがここまで伝えたような特徴があるなら、あなたに必要なことは「なんとかなるもんだな」「言ってみるもんだな」「やってみるものだな」を積み重ねることです。小さなことからで大丈夫。
「どうせダメだ」はあなたの思い込みであり、真実ではないことを知ってください。
あなたが思うほど、あなたは無力ではないのです。
大切なのは周囲のサポートを増やすこと。
次に、固まりやすい人が少しでも固まらないようにするためにできることをいくつか紹介しますね。
まず手っ取り早いのは、クレーム対応の「サポートを増やす」ということです。
「困った時は助けてもらえる」という感覚を持っておくだけでもだいぶ違います。ひとりで最後まで対応しようとすると、逃げ道がなくなるので当然ですが固まりやすくなります。
だから、上司や周囲の同僚に事前に説明しておいて、クレーム対応になったらすぐに助けてもらうような環境を整えましょう。
また、「間(ま)を作る」ことも合わせて取り組んでください。
困った時は相手と時間的な距離を置くことが大切です。
「確認しますので、少しお待ちください」
「私一人では判断できないので、上司と相談して返答させていただきます。いったん電話を切らせてください」
このように、頭が真っ白になったら「間を作る」ことを目指しましょう。うまく間をとったら、周囲に助けを求める。それを繰り返すことで、「なんとかなるもんだな」という感覚を育てていきます。
あとは、普段からよく運動して体を動かしましょう。
固まりやすい人は、手や足に力が入りづらくなっています。
試しに、イヤなものを押しのける動作(両手を広げて前に突き出す)をやってみてください。固まる人は、この動作が苦手で、ビシっと力強く前に押し出すことができません。
イヤなものが来たら押し出す、逃げる。これは生存するために大切な能力です。だからこそ、走ったり筋トレしたりして、筋力、体力を作っておくことはとても大切です。
どうしても固まる癖が治らない方は、トラウマや幼少期からの家庭環境などが関係していることも珍しくありません。カウンセリングで詳しい状況を把握して改善に向けて一緒に考えさせていただきますので、どうぞお気軽にご利用ください。
最後に、このブログ記事を管理職の方が読んでいるなら、「スタッフが固まりづらい職場環境」をぜひ作ってください。
例えば、クレーム対応を管理職が嫌がり、すべて現場任せにするような職場はクレーマーを野放しにするようなものです。結果として現場のスタッフの安全が奪われて傷つき、固まることが増えます。
また、利用者や患者の暴言がどんなにひどくても「電話をこちらから切ってはいけない」というような決まりがあると、スタッフは逃げ場をなくし、結果として固まります。
貴重な現場のスタッフをクレーマーから守り、燃え尽きや離職を減らす取り組みをぜひ進めてください。利用者や患者の暴言暴力、悪質なクレーマー対応を職場として学びたい方は、ぜひ以下のセミナーの受講を強くお勧めします。
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