ちょっと被害的な利用者がいて、時々不満をぶつけられるんですよ。明らかに誤解があるので一生懸命に反論するんですが、なかなかわかってもらえません。何か良い対処法はありますか?
対人援助の仕事をしていれば誰でも経験はあると思いますが、関係が良好だと思っていた利用者さんから突然不満をぶつけられたり、攻撃的な人から理不尽なクレームを受けることはありますよね。
そのような場面でどのように振舞うか、どのように対処できるか、これは援助職として試される場面だと私は思っています。
「なんとかわかってもらおう!」として一生懸命に説明する人や、こちらも負けじと大きな声で相手と張り合う人、ただただ謝り続ける人など、(もちろん時と場合によりますが)これまで色々な人を見てきました。
さて、あなたは普段どんな対応をしていますか?
今回は、怒りや不満をぶつけられた時の効果的な対処法を紹介いたしますので、ぜひ最後まで読んで、ご自分のことを振り返ってみてください。
相手に反論を重ねるコミュニケーション
あなたのことが信用できません。
ちょっと待ってください。どうしてですか?
僕が体調が悪いから午後のプログラムには参加できないと言ったのに、僕のことを疑いましたよね。『熱は?』『いつから具合が悪いの?』と言いましたよね。あの時、僕は思いました。あ、僕のことを信用してないんだな。僕が嘘をついていると思われているんだなって。
え?嘘だなんて思っていませんよ。心配だっただけですよ。
そんなことないと思います。前にも同じようなことはありました。体調が悪いと言っているのに。
え?いつですか?
忘れました。とにかく信用できないんです。もう嫌になりました。
違いますよ。信用してないなんてことないです。前に具合が悪くて何日も引きこもって連絡がとれなくなることがありましたよね?だからそうなってはいけないと思って…
僕だって引きこもることくらいありますよ。一体なんなんですか?
え?それが心配だったので…
もういいです!
相手の気持ちを理解しようとするコミュニケーション
あなたのことが信用できません。
え?あ、そうですか…。理由を聴かせて頂けませんか?
僕が体調が悪いから午後のプログラムには参加できないと言ったのに、僕のことを疑いましたよね。『熱は?』『いつから具合が悪いの?』と言いましたよね。あの時、僕は思いました。あ、僕のことを信用してないんだな。僕が嘘をついていると思われているんだなって。
あ、あの時のやりとりですか。はい、確かに私は言いましたね。熱があるのかとか、いつから具合が悪いのかとか、質問しましたね。
そうです。僕が具合が悪いと言ってるのに、あれこれ詮索して
そうですか…。私は〇〇さんのことを心配に思って質問したんですけど、それが〇〇さんにとっては信用されていないと感じたんですね。
はい。こっちは具合が悪いと言っているのに。
そうでしたか。全く私はそんなことに気づいてませんでした。だから、今とても驚いています。具合が悪いのに負担をかけちゃいましたね。
まあ…はい、そうです。
私としては、決してそんなつもりで言ったわけではないんですが、それはわかってもらえませんか?
でも、前にも同じようなことがありました。私が具合が悪いのに、毎回毎回色々聞いてくるんだなと思って。
前から不満に思っていたんですね。全然気づきませんでした。今回言っていただいて良かったです。
まあ、はい…
私にその話はしづらかったですか?
まあ、そうですね…
そうですか。前から不満だったなら、なおさらこの間のやりとりは負担だっただろうなと思いました。確かに、来たくなくなりますね。
はい、そうなんです…。本当は、その場で言えるようになれればいいんでしょうけどね。
その場で言うのは難しいですか?
苦手ですね…
そうですか…。そのために何か私にお手伝いできることってありませんかね?
うーん…
じゃあ、今度ゆっくり話しましょう。
はい。
不満や怒りをわかってほしいクレームもある。
ここまで読んでいただき、いかがでしょうか。
「反論を重ねるコミュニケーション」は誰しも経験のあるやりとりではないかと思います。
私もまだ経験が浅い頃は、なんとかわかってもらいたくて一生懸命に言葉を重ね、結局患者さんと関係をこじらせてしまったことは何度もありました。
突然不満を表明されたり、怒られたりすると、とにかく焦りますよね。
さらに周囲に他の患者やスタッフがいて「見られている」と思うだけでもより緊張してしまいます。
だからこそなんとかその場を納めようと対応するのですが、これがうまくいかないんですよね。
なぜなら、相手にわかってもらうことが主な目的になり、相手の気持ちに耳を傾けることができなくなるからです。
相手はあなたを傷つけたいわけではなく、謝罪を求めているわけでもなく、ただただ「不満をわかってほしい」「辛かったことを伝えたい」だけかもしれません。
だから、反論ではなく、まずは「話を聴く」必要があります。
明らかに相手に誤解があっても、遮らずに話を聴く。
まず、一つ目のポイントはこちらです。
僕が体調が悪いから午後のプログラムには参加できないと言ったのに、僕のことを疑いましたよね。『熱は?』『いつから具合が悪いの?』と言いましたよね。あの時、僕は思いました。あ、僕のことを信用してないんだな。僕が嘘をついていると思われているんだなって。
え?嘘だなんて思っていませんよ。心配だっただけですよ。
もし患者さんからこのように責められたら、「誤解です!」と言いたくなりますよね。
ここで反論をしたくなる気持ちは十分に理解できますが、ここはグッとこらえて話を聴く必要があるのです。
不満をぶつけられるとすぐに「責められた」と受け止めやすい人は、これが苦手ですぐに反論してしまいます。
繰り返しますが、相手があなたに不満を語る理由は、きちんと話を聴かないと理解することができません。
いたずらに言葉を重ねて反論せず、腹を据えて話を聴きましょう。
僕が体調が悪いから午後のプログラムには参加できないと言ったのに、僕のことを疑いましたよね。『熱は?』『いつから具合が悪いの?』と言いましたよね。あの時、僕は思いました。あ、僕のことを信用してないんだな。僕が嘘をついていると思われているんだなって。
あ、あの時のやりとりですか。はい、確かに私は言いましたね。熱があるのかとか、いつから具合が悪いのかとか、質問しましたね。
このように、自分が発言したことが事実であれば、「素直に認める潔さ」がとても大切です。
きちんと認めて、「それについてどう感じたのか教えてください」と相手に関心を示す。
この誠実さが伝わることで、相手も「話を聴いてもらえる」「向き合ってもらえている」という安心感を覚えることができます。
「YESセット」を活用する。
相手と良好な関係を築くためのコミュニケーションのテクニックに、「YESセット」というものがあります。
相手が「はい」「そうです」という、YESで答えられる質問を複数回重ねていくことで、信頼関係を築きやすくなると言われています。
あ、あの時のやりとりですか。はい、確かに私は言いましたね。熱があるのかとか、いつから具合が悪いのかとか、質問しましたね。
そうです。僕が具合が悪いと言ってるのに、あれこれ詮索して
そうですか…。私は〇〇さんのことを心配に思って質問したんですけど、それが〇〇さんにとっては信用されていないと感じたんですね。
はい。こっちは具合が悪いと言っているのに。
そうでしたか。全く私はそんなことに気づいてませんでした。だから、今とても驚いています。具合が悪いのに負担をかけちゃいましたね。
まあ…はい、そうです。
コツは、相手の感情と欲求をくみ取り、丁寧に確認していくことです。
意識しすぎると不自然なやりとりになり、逆に相手の不信感につながってしまう可能性もありますので、普段から練習を積み重ねて自然に使えるようになると良いでしょう。
補足すると、これはあくまでもテクニックであり、テクニックだけで信頼関係を築くことはできません。
相手にきちんと関心を持ち、誠実であること。
これが土台にあるからこそ活きるテクニックであることをご確認ください。
最も大切なのは、援助職が自分の「不安」と付き合うこと。
「相手の気持ちを理解しようとするコミュニケーション」を実践する上で、何よりも欠かせないものは、「不安と付き合う力」です。
患者さんから不満を表明される、強い口調で非難されるといった状況は、援助職にとって恐れや不安がとても強くなりやすいシチュエーションですよね。
この恐れや不安などのネガティブな感情とうまく付き合うことができないと、不安に飲まれて行動のコントロールを失います。
つまり、冷静な対応ができず、知らず知らずのうちに一生懸命に反論を重ねてしまったり、ひたすら謝ってしまったりして、余計にこじらせてしまうことにつながります。
クレーム対応がうまくいかない人、苦手意識が強い人は、「不安」を切り口に自分と向き合ってみることも大切なことです。
できることからひとつずつ、取り組んで行ってください。