今回は、対人援助職の方から実際に頂いた相談事例をもとに、ストレスを減らす働き方や心構えについて、解説していきます。まず、相談内容を紹介いたします。
聞いてください!転職してもうすぐ1年になる職場なんですけど、とにかくひどいんです。
法人本部の人たちは現場にまったく関心がない。現場を仕切っている施設長は人の話をまったく聞かない。スタッフはそれぞれが自己流で情報共有も雑。
ちゃんと情報共有して、カンファレンスをやったりするのが普通ですよね。それなのに、みんながそれぞれ動いているだけで何もないんです。
あと、明らかにおかしなことをやっている主任がいるんですよ。よくあれで問題にならないなと思うんですけど、施設長に相談しても「まあ、特にクレームがあがっているわけでもないしね。なにか気になることがあったらいつでも言ってね」で終わりです。本当にがっかりです。
今週、真面目な同僚がひとり辞めてしまいました。「上に何を言っても話が通じないし、疲れたから少し休んで充電する」と言っていました。うちはまともな人がどんどん辞めていって、好き勝手にやる人が残っているんです。利用者さんたちが本当に気の毒です。
だから、僕はなんとかこの職場を変えたいと思うんです。色々と管理職に意見しました。この前参加した虐待防止のセミナーで聞いた内容とかも資料を渡して、職場環境改善の必要性を伝えました。
でも、「あー、そうなんだね。勉強熱心だね」で終わりですよ。ひどくないですか?! その時はついカッとなってしまって、強く訴えたんです。そしたら、最後は私がクレーマーのような扱いを受けてしまいました。悪いのは僕なんですか?!
本当にひどい職場で、私は毎日職場のせいで辛くて、苦しんでいます。どうしてここまでわかってもらえないんでしょう。こういう人たちって、なんなんですかね。感覚がマヒしているんですかね。とにかく職場のせいで苦しくて大変です。
こういう場合、どうやったら職場を変えられますか?職場を変える方法を教えてください!お願いします!私がやるしかないんです!
このように、職場環境に強い不満を持つ援助職の方は本当に多いですよね。
人手不足、過重労働が日常でお互いに余裕もなく、管理職とのコミュニケーションも十分にとれない。そのような中で毎日働き続けるのは本当に大変だと思います。そして、この方のように「自分がなんとか職場を変えないといけない!」「利用者さんのためにも!」とがんばる人もまた少なくありません。
そんな方たちにとっては、職場環境を変えるために「少しでも良い方法があれば」と考えるのは当然のことです。また、そこまで強い思いを持って働いている分、職場への不満や怒りも強くなりやすいですよね。だからとても疲れるし大変なのです。
もしこのブログを読んでいるあなたも同じような状況で苦しい思いをしているなら、ぜひ最後まで読んでご自分のことを振り返ってみてください。
職場を必ず変えることができるような方法は存在しない。
まず、「職場を変える方法を教えてください!」に回答します。
それは「そんな魔法のような方法はありませんよ!」です。
がっかりさせてしまいすいません…。でも、これってごく普通のことで、相手を必ず変えることができるような方法なんて存在しないのです。「そうは言いますけど、でも私の方が正しいですよね?」と言う人もいます。確かにあなたの意見は間違っていないかもしれない。
ただ、たとえ正しいことを伝えたとしても、それを正しいと受け取るのかは相手が決めることで、こちらでコントロールできることではありません。そして職場があなたの話を聞いて「正しいことを言われた」と思っても、そこから方針を変えるかどうか、それも職場が決めることなのです。
職場が変わらない場合、そこから先どうするかは自分で決めること。
あなたが職場に何度も何度も意見を伝えたけど、結局職場は何も変わってくれない。変わる気が見られない。そんな状況に陥っている方に、ここから大切なことを伝えます。
私がこんなにがんばっているのに、職場はひどすぎです!上の人たちが自分勝手なせいで、私は本当に苦しくて毎日大変なんです!
こんな話はこれまで色んなところでたくさん聞いてきましたし、お気持ちはわかります。でも、ちょっと厳しいことを言わせてください。
変わらない相手に対して、自分がどうしていくのか、そこから先はあなた自身の責任であり、決して職場の責任ではありません。
相手が変わらないことがわかったのですから、そこから先の行動は、あなた自身が自分の責任において決めることなのです。
あなたが何を大事にするかで選択は変わってきますよね。
「介護職としてのキャリアを積みたいから、我慢してあと1年は働こうかな」
「僕は利用者さんのためにここに残ることを選択しよう。自分がこの職場にいることにはきっと意味があるはずだ!」
こうやって自分の責任で自分の行動を選択できる人は、職場への不満は感じても恨みのように強い怒りの感情にはなりづらいはずです。
一方で、「職場が変わらないせいで私はこんなに苦しんでいる」と他責で考える人は、いつまでも相手を変えることにこだわります。当然ですが相手は簡単に変わりません。変わらない相手を変えようとすればするほど人間関係の摩擦は増え、感情的なやりとりに発展し、結果として恨みつらみの関係になります。
自分の職位に伴うパワーを意識すること。
施設長におかしいと思うことを強く訴えました。そしたら、最後は僕がクレーマーのような扱いを受けてしまいました。悪いのは僕なんですか?!
最後に、このご質問に回答します。
まず、職場を変えたいとあなたが思うなら、最初に意識してほしいことは「自分の職位に基づくパワー」です。
例えば、もしもあなたが管理職であれば、職場環境を改善するために意見を言うこと、また具体的に行動を起こすことは、職場からは「管理職の権限に基づく真っ当な行動」と認識されるのではないでしょうか。当たり前のことですが、管理職という職位にはそれだけのパワーがあるわけですから、職場を変えようと動くこと自体が問題にされることはないはずです。つまり、安全に職場環境改善に動くことができるでしょう。
ただ、入職してようやく1年になる管理職ではない職員の場合はどうでしょうか。管理職でもなければ、職場での十分な実績もないわけですから、職位に基づくパワーは弱いことが多いはずです。そのレベルのパワーしか持ち合わせない人が職場の問題点を指摘するのですから、いくら正しいことを言おうと、職場から相手にされないだけでなく、「面倒くさい人」とクレーマー扱いされてしまう可能性もありますよね。
さらに今回の相談者のように「私は正しいことを言っているのに!」と納得できない場合、主張がどんどん強くなっていきます。
つまり、正論、道徳的価値観、法律、感情などをパワーにして、さらには他のスタッフまで巻き込んで職場に訴えることになりますから、職場からは厄介者扱いされる可能性は増えていきます。
これらの行動が良いか悪いかの話ではなく、自分の職位に基づくパワーを越えた行動をとる場合には、それなりの問題が生じることを覚悟の上で行動することをお勧めいたします。
ここまで読んでいただいて、いかがでしょうか。聞く人によってはきつくて受け入れがたい内容であったかもしれませんが、安全に仕事を行っていく上でとても大切な話になります。
「自分がどうありたいのか」ということをしっかりと意識すること、そして自分の職位に伴うパワーを自覚すること、これらを理解して行動を選択していきましょう。