カスハラ・暴力被害を仕事の一部にしてしまう職場の特徴とは。

クレーマー・暴力被害

福祉施設や医療などの対人援助の現場で起きるカスハラ・暴力被害が深刻化していますが、被害がなくならない一つの根深い要因として、「この仕事をしていればこれくらい当たり前だ」という考えを援助職側が持っていることが挙げられます。

実際に、被害を受けたスタッフに「早く慣れた方がいいよ」「もっと強くならないとね」といった言葉が今でも当たり前に行き交っているという職場も少なくはないはずです。

それでは、このように「暴力被害を仕事の一部にしてしまう職場」にはどのような特徴があるのでしょうか。今回のブログでは、その主な4つの特徴を解説していきます。

ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら


「仕事で落ち度があること」=「被害を受けるに値する」という考え方をする。

あの新人はコミュニケーションが苦手だし不注意だよね。だからAさん(患者)にあんなにキレられるんだよ。まあ仕方ないよね、あれだけ不注意なんだから。

Bさん(利用者)があんなに怒るのは、あなたの話の聞き方に問題があるからです。Bさんは何も悪くありません。あなたが反省すべきです。

こういう会話は、あなたの職場で当たり前に交わされていませんか? もしそうであれば、少し考えてみてください。

「仕事で落ち度があること」と「怒鳴られること」は、全くの別問題であることがわかりますか?

ここを混同してしまうと、「あなたに落ち度があるんだから被害に遭うのは仕方がないよね」「怒鳴られて痛い目に遭って反省しなさい!」と職場が暴力を肯定することになるので、被害が減るはずがありません。

もしスタッフの仕事の仕方に問題があるとすれば、必要なのは指導や教育、または立場上の責任を負うことであって、暴力の被害に遭って傷つくことではありません。

また、暴力的な言動を繰り返す利用者に対しても、「うちの新人が迷惑をかけてすいません」「ちゃんと指導しておきますので」と謝るだけで終わりにするのではなく、不満を感じた際に暴力的な手段で訴えることはやめてもらうように伝えなければいけません。

職場が謝るだけで終わってしまうと、利用者は「スタッフに落ち度がある時は怒鳴ってもOK」と受け取り、同じことが繰り返されます。

繰り返しになりますが、「落ち度があること・仕事ができないこと・仕事が雑なこと」と「暴言暴力の被害に遭うこと」は全くの別物であるということを職場全体で強く意識しましょう。


暴力被害を「仕事上の勲章」のように扱い、武勇伝として語る。

窓口に怒鳴り込んできた人に、胸倉つかまれて、首を絞められそうになったことあるよ!

すごい!僕なんてまだまだですねー

このように、暴力被害のエピソードは、大なり小なり誰にでもあるものですし、それを職場で共有することは大切なことだと思います。

ただし、「経験を共有すること」や「被害を防ぐこと」を目的とした共有ではなく、単なる「武勇伝」として自慢げに、得意気に面白おかしく語るようなことが当たり前に行われる職場は、暴力被害を仕事の一部にしてしまいます。

もしあなたが役職者や経験豊富なベテランのスタッフであれば、より注意が必要です。あなたが自身の被害エピソードを武勇伝にすることは、つまり、新人や経験の浅いスタッフにとっては「この仕事をしていればそういうことも普通なんだな」「被害に遭うのは嫌だけど、そういう経験を積み重ねることで一人前になるのかもな」と学習することにつながります。

私も同じように学習した経験がありますが、そうすると、被害を避けることよりも「被害に慣れようとする意識」を強く持ちやすくなります。

「これくらい普通!」「平気平気!」

こうやって自分に言い聞かせていましたが、それでも傷つけられれば辛いし怖いし、嫌になります。でも、そんな時も「こんなことで怖いなんて言ったら、弱いと思われちゃうな…」と恥の意識をもつようになり、問題を一人で抱えやすくなるのです。


被害を受けながらも支援をやりきった利用者とのエピソードを、ただの「美談」にして終える。

あの利用者さんは、初めは大きな声で怒鳴って、時には物を投げたりして、本当に大変だったのよ。本当に怖い思いをしたし、泣かされたこともあった。

でも、きっとわかってくれるだろうと思って、関わり続けてね。最後は心を開いてくれて、「あなたは僕のことを初めて拒絶しなかった」と言ってくれたの。

今では、本当に良い関係を築けていると思う。だから、介護の仕事って、すごくやりがいのある仕事だよね。

こんなエピソードは援助職の仕事をしている人なら、大なり小なりあるはずです。まさに援助職の仕事の醍醐味を味わえる場面であるとは思いますが、このような経験を語る時は注意が必要です。

なぜなら、「暴力被害に耐え抜くこと」は、職場としての適切な対応ではないはずなのです。

「耐え抜いて患者さんと良い関係を築けたこと」が個人的に良い経験になったというのはわかりますが、それを管理職や経験豊富なベテランが美談として語ってしまうと、職場が暴力を受け入れていることになりますから、武勇伝と同様に注意しましょう。

今回はたまたまうまくいきましたが、私は〇〇さんのひどい暴言にとても傷ついたし、職場としての対応も反省すべき点が多く見つかりました。今後、皆さんが同じような被害に遭わないためにも、再発防止に取り組んでいきたいと思います。

これが職場としての適切な対応です。次の項目で説明しますが、職場には従業員の安全と健康を守る安全配慮義務が課されていることを理解して対応しましょう。


「ケース対応」と「職場の安全衛生管理」の問題を混同する。

「あの人は躁うつ病でハイな時は攻撃的になるから、仕方がないんだよ」

「あの人はトラウマを抱えているから、いくらひどい暴言を吐いても、寄り添ってあげる対応をしないといけないよ」

「発達障害だから、理解してあげないと」

こんなふうに、利用者や患者の病態や、過去に受けた心の傷などが暴力の原因であり、だから仕方がないんだよ、という考えで暴力被害を「仕事の一部」として、職場が許容してしまうことはとても危険です。

なぜなら、相手の病態などに応じた対応は「ケース対応」の問題であって、暴力被害は「職場の安全衛生管理」の問題として考えるべきだからです。

安全配慮義務とは?

使用者は、労働契約に伴い、労働者が生命、その身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(労働契約法第5条)

「職場は従業員を雇用するなら、心身に過度な負荷をかけて健康を損なわせるようなことがないように、十分に注意する義務がありますよ」ということです。

つまり、カスハラや暴力被害は「あの人はトラウマがあるから、寄り添ってあげないとね」で済む話ではありません。

以下のブログ記事では、安全配慮義務以外にも職場が知っておくべき安全衛生の法知識を紹介していますので、ぜひ確認してみてください。


ここまで読んでみて、いかがでしょうか。

セミナーでこの話をすると「今まで当たり前すぎて違和感を感じていませんでしたが、耳が痛くなりました」というお声をよく聞きます。

まさにその通りで、大切なのは「自分たちの当たり前を疑うこと」なのです。

なんでもかんでも「これくらい普通だよ」「この仕事をしていれば当たり前だから」で済ませていると、思考停止に陥ります。対人援助職にとっては「当たり前」でも、そうでもないことはたくさんあるのです。

常に自分たちの環境を客観視して、「当たり前」を疑うことから始める習慣を持つこと。

まずはそこから始めてみてください。

AIDERS 代表 山﨑正徳

公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。自身の燃え尽き・離職等の経験から、対人援助職のメンタルヘルスを向上させることを目的にAIDERS(エイダーズ)を開業。これまで、延べ3000人以上の対人援助職に対してバウンダリーやクレーマー対応などをテーマに講演を行っている。

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