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利用者の自殺を目撃して大きなショックを受けた時の「心のダメージを早期に回復させる方法」

メンタルヘルス

老人ホームで看護師をしています。実は先週、利用者さんの自殺現場を目撃してしまいました。

朝、利用者さんが部屋から出てこなくて呼びかけにも応じないので、部屋の扉を開けました。そしたら、首を吊って亡くなっていたのです。いきなりその光景が目に飛び込んできたので、もう大パニックです。私の叫び声を聞いた施設長と主任さんがすぐに来てくれて、あとは二人が対応してくれました。

あれから一週間経過しましたが、とにかくあの光景が目に焼き付いて離れません。思い出すだけで動悸がして苦しくなります。今はだいぶ眠れるようになりましたが、初めの二日くらいは全く眠れませんでした。

あと、亡くなった利用者さんのことを思うと、「どうして気づいてあげられなかったのだろう」と思っては自分を責めています。私はその方とけっこう仲が良くて、亡くなる前日も一緒にテレビを見て話をしていました。いつもより少し元気がないなと思っていましたし、ご家族関係で悩んでいることは知っていました。

でも、まさか自殺するほど追い詰められていたなんて思いもしませんでした。こう話しているだけで涙が出てきて苦しいです。早く回復する方法があれば知りたいのですが、どうしたら良いでしょうか。

「自殺現場の目撃」というのは、言うまでもなくあまりにも衝撃的で、心身にかかる負担は想像を絶するものです。

私はこれまで、自殺、殺人、災害などの非日常的な体験をした方のケアを多くこなしてきましたが、自殺の第一発見者はどのケースでも大変強いショックを受けて苦しんでいたことを記憶しております。

では、今回のように非日常的な強いショックを受けて心身に大きな影響が出ている場合はどのように対応すべきでしょうか。

今回は「自殺の目撃」を切り口に説明しますが、暴力被害などのショックな出来事に遭遇する機会の多い対人援助職は誰もが知っておくべき内容です。ぜひ最後まで読んでみてください。

ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら


急性ストレス反応とは

まず、このコップの画像を見てください。

コップに水が注がれています。

このコップに注がれる水を「ストレス」、そしてコップを私たちの「ストレスを受ける器」とイメージしてください。私たちは、この「ストレスを抱える心のコップ」を一人一つ持っています。

業務量や仕事の内容、家族や友人、恋愛、病気、金銭的な問題など、毎日生活をしていれば様々なストレスがかかりますよね。日々、色々なストレスに晒され続けながらも、私たちがなんとかやりくりしながら生活できているのは、心のコップから水が溢れることなく、自分のストレスのキャパの範囲内に抑えることができているからです。

また、日常的にかかるストレスはある程度心の準備や慣れができているので、対応もしやすく、キャパオーバーにはなりづらいかもしれません。

ただし、このコップに、突然5リットルの日本酒をドバドバドバ!っと注いだらどうなるでしょうか。

普段は水しか入らないところに大量の日本酒が注がれたら、パニックになりますよね。その場合、あっという間にコップが満杯になり、日本酒がたくさん溢れ出ます。

これが、いわゆる「心のキャパオーバー」の状態です。

急に注がれる大量な日本酒(非日常的な大きなストレス)に心が対応しきれず、たちまちショック状態に陥ります。

これが、「急性ストレス反応」と呼ばれるもので、普段経験しない大きなショックを受けた際、私たちの心や身体、行動には様々な反応が生じます。

自殺のようなショックな現場を目撃した場合、当然ながら強い恐怖にさらされ、大混乱に陥ります。

「涙が止まらない」「数日間は一睡もできなかった。食事も喉を通らない」「職場に来るのが怖くて苦しい」といった訴えは多くの方から聞かれるものです。

また、亡くなった人との関係が近しいほどに、「気づいてあげられなかった」といった罪悪感も強くなり、自分を責めては苦しむことになります。


これらは、非日常的な出来事を経験したことで起きるノーマルな反応であり、心が弱いからではなく、心が健康だからこそ起きる反応です。

辛いと思いますが、慌てる必要はありません。 大切なことは、急性ストレス反応を理解して受け入れ、正しい対処をとることです。


急性ストレス反応の回復プロセス

急性ストレス反応からの一般的な回復のイメージは以下の通りです。

個人差はありますが、通常2週~4週くらいかけて回復していきます。

自殺の目撃の場合は相当にショックが強くなりやすいため、この図で説明しているようにすっきりと回復することは難しいかもしれませんが、「思い出すと辛いけど、でも日常には支障なく過ごせる」というレベルになれば良いと思います。

ポイントは、「きちんと具合が悪くなること」です。

特に始めの1週間位は最も負担がかかる時なので、無理をせずに過ごす必要があります。

イメージとしては、ボクシングで相手から強力なパンチをまともに受けた時のことを考えてください。

パンチのダメージを少しでも減らして、後遺症を残さないようにするにはどうしたら良いと思いますか?

答えは明白ですよね。それは、ちゃんと倒れて、ダウンすることです。

ここで無理をせずに心身を休めることが、スムーズに回復をさせるために大切になります。

だからこそ、辛く苦しい状態をそのまま受け入れ、きちんと具合が悪くなる必要があるのです。


急性ストレス反応から早めに回復するために心がけること

大きなショックを受けた時に心がけてほしい過ごし方のポイントは、以下の通りです。

  • 「心に重大なケガを負った」「心の交通事故に遭った」と自分に言い聞かせ、できるだけ無理をせずリラックスして過ごす。
  • 具合が悪ければ無理をせずに休む。
  • 1週間くらいは、通常の6割くらいのパフォーマンスになることを受け入れる。
  • 一人で抱え込まず、同僚や家族と共有する。
  • 「看護師ならこれくらい耐えるもの」などと精神論で済ませようとすることは症状の悪化につながるので要注意。心身の不調は職場に伝え、受けられる支援は断らずに受ける。
  • 感情は抑圧せず、認めて受け入れる。「怒ってはいけない」「これくらいで辛いと感じてはいけない」のように思考で処理せず、「強く怒っている」「とても傷ついた」と受け入れる。
  • 無理に忙しくしたり、仕事にのめりこんだりしない。
  • お酒、ネット、食事、買い物などに依存しないように気をつける。

このように、自分が大きな傷を負ったことを認め、自分を労わって過ごすことです。

私は大きなショックを受けた方に対して「大変な目に遭ったのですから、ひとまず自分をVIP扱いして一週間過ごしましょうか」と声をかけることが多いです。

例えば、夕食は外食やスーパーの総菜で済ませる、家事を他の家族に替わってもらう、普段食べないような美味しいものを食べる、マッサージを受けるなど、自分が楽だと感じることや、安心、喜びを感じられるような過ごし方を心がけてください。

このような感情の扱いが苦手な方は、以下のブログ記事を参考にしてみてください。

話題をタブー視せず、仲間と気持ちを共有すること

本当は同僚に話を聞いてほしいんですけど、みんなもうあの話はしたくないだろうなと思って。だからできるだけ口には出さないようにしています。

これは自殺者が出た職場の方から本当によく聞かれる話です。

つまり、「本当は話したいのだけど、空気を読んで話題を口にしない」ということをみんなで行っているケースがとても多いのです。

お気持ちはわかりますが、話題をタブー視することはお勧めしません。

なぜなら、強いストレスにより生じた辛さや悲しみ、不安や恐怖といった負の感情は、仲間と共有することでより早く癒されるからです。

だからこそ、無理に話題をタブー視せず、安全に語り合える環境が理想です。

私、正直まだ怖くてさ。やっと眠れるようにはなってきたんだけど、どうしても職場に来ると緊張しちゃってね。

おれも、未だにあの部屋の前を通れないもん。だからわざわざ遠回りしてるもんね。こういうのって本当に治るのかな。これがずっと続くのかなと思うと恐ろしいよね。

こういうやりとりができる環境か否かにより、回復具合がだいぶ変わってきます。

辛いことを無理に話す必要はありませんが、共有したい気持ちがあるのであれば、安全な場所で安心できる仲間と気持ちを共有しましょう。


症状が改善しない場合は、専門家を頼る。

最後になりますが、一か月以上経過しても症状が改善に向かわない場合は、速やかに専門家に相談することをお勧めします。

職場に産業医や保健師、カウンセラーがいれば相談してみましょう。職場に専門家がいない場合には、心療内科・精神科を受診することをお勧めします。

自殺などの惨事に対する職場としての対応方法は以下のブログ記事で解説しています。こちらもぜひ読んでみてください。

AIDERS 代表 山﨑正徳

公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。自身の燃え尽き・離職等の経験から、対人援助職のメンタルヘルスを向上させることを目的にAIDERS(エイダーズ)を開業。これまで、延べ3000人以上の対人援助職に対してバウンダリーやクレーマー対応などをテーマに講演を行っている。

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