患者から「名前を教えろ」と詰め寄られたら、どうすればよいのでしょうか。
診察への不満や怒りをぶつけながら、「下の名前も言え」と強い口調で迫ってくる。
看護師として誠実に対応したい気持ちはあっても、個人情報としての不安もある。
その板挟みで、戸惑う人は少なくありません。今回は、そんな“名前を教えろ”という要求にどう向き合えばよいのか、現場の声をもとに考えてみます。

診察が不満だったことがきっかけで、電話をしてきては文句を言い続ける人がいて困っています。
無茶な要求ばかり言うので断ると、必ず「あなたの名前は?」と聞かれます。「中田です」と答えたら、「下の名前は?」と聞くんですよ。
それは言いたくなくて黙ってしまっていたら「なんで答えられないんだ!?」「看護師なんだろ?普通は名前くらい言うだろ」「医者はフルネームでホームページに載せているんだから」とまくし立ててきました。
情けない話ですが、僕は相手の勢いに押されて名乗ってしまいました。そしたら、次の電話から他のスタッフに「中田はちゃんとフルネームで名乗ったぞ」「なんでおまえは名乗らないんだ」と執拗に要求するんです。
僕のせいでみんなに迷惑をかけてしまいました。これは、どのように対応すべきなんでしょうか…。
従業員のプライバシー保護は安全衛生の柱
「安全衛生」という言葉を聞くと、工場や現場の作業服やヘルメットを思い浮かべる人もいるかもしれません。
しかし、医療や福祉の現場でも同じように大切な考え方です。
簡単にいうと、安全衛生とは働く人が安全で健康に働ける環境を守ることを指します。
- 身体の安全:ケガや事故を防ぐこと
- 心理的安全:ストレスや恐怖、暴言などから心を守ること
看護師の場合、患者対応やクレーム対応もこの安全衛生の一部です。
つまり、職員のプライバシーや心理的負担を守ることも、「安全衛生」の重要な柱なのです。
詳しくは以下のブログをご確認ください。
このように考えると、「名前を教えろ」という要求への対応は、単に個人の判断に委ねる問題ではなく、従業員のプライバシーを守るという安全衛生の観点から考えるべきものです。
職員が恐怖やストレスを感じる状況は「心理的危険要因」として扱う必要があります。
実際には、「名前を名乗ったことで執拗な電話が続いた」「SNSで個人が特定されそうになった」など、二次被害が起こるケースも少なくありません。
「個人」ではなく「組織」として対応する。
対応ルールは「個人」に任せるのではなく、組織として統一しておくことが大切です。
こうした決まりがあるだけで、現場の看護師は「自分が拒否している」のではなく「職場のルールに従っている」と説明でき、心理的な負担を大きく減らすことができます。
また、どの職員も同じ対応をすることで、患者側にも「対応が一貫している」「組織として信頼できる」という印象を与えることができます。
つまり、“名前を教えろ”という要求に対しては、個人ではなく組織全体で守る姿勢が何より大切なのです。
クレーマーは風通しの悪い閉鎖的な環境を好む。
職場で統一した対応がなされず、個々の職員に対応を任せる状況は、援助職の現場では多く見られます。
「私ならうまくやれるのに」と思う人もいるかもしれませんが、その思いこそクレーマーにとって非常に都合が良いので、注意が必要です。
個人任せの環境は、クレーマーにとっては目の前の看護師を個別に追い詰めやすく、脅しが通じやすいのです。
以下の画像のイメージです。

権限のない現場の看護師が個別に対応すると、患者は境界線を軽々と越えて、パワーで押し切りやすくなりますよね。
このように組織としての境界線が弱いと、職員が巻き込まれやすくなります。
「自分の身は自分で守るしかない」という意識も働きますから、脅しに屈してしまうことも増えていくでしょう。
クレーマー対応の基本は「組織としての境界線」を強化すること
境界線を強化するとは、組織として「できること」と「できないこと」をはっきりさせておくことを意味します。
たとえば、暴力や脅迫に対して「どこまで許容するのか」「これ以上は対応しない」という判断ラインを決めておくことです。
できないことは断固として対応せず、理不尽な要求にはチームとして一貫した対応を取ります。

権限のある役職者が対応することで、「患者と看護師の個人的な関係」ではなく、「患者と病院としての関係」に切り替えることができます。
これが「組織としての境界線を強化する」ということです。
理不尽な要求に個人で立ち向かうのは、とても難しいことです。
だからこそ、組織としてのルールと一貫した対応が、現場の看護師を守ります。
「名前を教えろ」という要求も、個人の問題ではなく、組織としてどう守るかの問題として捉えることが大切です。
その積み重ねが、安心して働ける職場づくりにつながっていきます。
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