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訪問看護師のためのバウンダリー(境界線)チェック|メンタルヘルスを整える利用者との距離感

バウンダリー(境界線)

今回は、毎日忙しく働く訪問看護師の皆さんに向けて、「安全な人間関係の距離感=バウンダリー(境界線)」について考えていただくための話をします。

病院勤務時代は健康だけが取り柄でしたが、訪問看護師になり約1年半病気やケガが絶えません。休日も心身の疲労は取れず、自分の関わり方に問題があるのではないかと思い始め、今回のセミナーに参加させて頂きました。
結論、やはりバウンダリーを保つことができていなかったことがよくわかりました。すべてがつながりすっきりした感があります。今後はできることから初めて自分を変えていこうと思います。ありがとうございました。

これは以前、当方のセミナーを受講した方からいただいた感想です。

病院勤務はチーム、システムの中で看護師の役割がはっきりしていますよね。

一方で、訪問看護の現場では、患者さんとの関係が一対一になり、役割も病院と比べれば抽象度が上がるでしょう。

その中で、利用者と「家族のような親密な関係にならざるを得ないケース」も多々ありますよね。

だから、利用者や家族の期待を受け止めすぎたり、「自分がなんとかしなければ」と背負い込みすぎたりしてしまい、疲れてしまう方が多いのです。

「訪問看護師の方が自分には合っている!」という方がいる一方、「明らかに体調が悪くなった」「自分には向ていないかも」という声は、これまでに何度も聞いてきました。

訪問看護師のようにより親密な関係で支援をする仕事の場合、「バウンダリー(境界線)の意識を持つこと」は健康を保つ上でとても大切になってきます。

バウンダリー(境界線)という言葉を初めて聞く方は、まずはこちらのブログ記事を読んでみてください。

上記のブログ記事では、バウンダリー(境界線)が保てない時に起きる問題を、「支配・被支配の関係」「共依存の関係」「無関心」という三つの関係性で説明しました。

それでは、安全な人間関係の距離感を保つために、どのような意識や気持ちで、利用者との距離を保つ必要があるでしょうか。ここから、チェックリストを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳 のプロフィールは こちら


摩擦が生じやすくなる利用者に対する考え方

  • 私があなたを支える。(職場としてではなく、個人としての「私」)
  • あなたのためなら、夜でも休日でも動いてあげたい。
  • 私が一番、あなたの辛さをわかっている。
  • 私が関われば、あなたの生活を立て直すことができる。
  • 私の言う通りに続ければ、きっと良くなるはず。
  • 他の看護師では、あなたのケアはきっと難しい。

訪問看護師の方は、本当に熱心な方が多いですよね。

強い責任感や誠実さ、そして「何とかしてあげたい」という温かい思いがある。

その思いがあるからこそ、困難な現場でも粘り強く支えることができます。

ただ、思いの強さはときに「家族的な関係」をつくりやすくします。

気づかぬうちに、「職務としての支援」から「個人としての支え」へと境界が曖昧になってしまうこともあります。


利用者と安全な人間関係の距離感を保ちやすい考え方

  • 私は訪問看護師としての専門性と、サービス契約に基づいてあなたの生活を支援する。
  • 私にできることには、医療的・制度的な限界がある。
  • 私はあなたの生活の困りごとを一緒に整理し、必要な支援をチームで考える。
  • 私はあなたと対等な立場で関わる。
  • 私はあなたが自分の力で体調管理や生活改善に取り組めるよう、サポートする。
  • あなたには、治療方針や担当スタッフを選ぶ自由と責任がある。

先ほどの「摩擦が生じやすい距離感」と比べると、だいぶ安全性が保たれる考え方になります。

仕事とプライベートの境界線を明確に分けることにつながる考え方でもありますから、「訪問看護師も利用者も守る距離感」です。

「思いの強さ」はあっても、冷静さを保ち、なおかつ自分の役割と責任に基づいて行動できる考え方です。


訪問看護師がコントロールを受けやすい利用者の距離感

次は、利用者からの「訪問看護師に対する思いの強さや考え方」がどのように関係性に影響を及ぼすのか、説明していきます。

当たり前のことですが、いくら訪問看護師が距離の取り方に気を付けていても、利用者の距離感の影響は必ず受けてしまうものです。

「私がこんなに辛いんだから話を聞いてください!見捨てるわけ?!」

このように要求が強いとコントロールを受けてしまうこともあるでしょう。

  • 私は具合が悪いんだから、あなたは何度でも来てくれないと困る。
  • 訪問看護師なんだから、私の希望を断るのはおかしい。
  • 私は病気で苦しんでいるんだから、どんな言葉を言っても受け止めるのがあなたの仕事でしょ。
  • 看護師が間違ったことを言ったら、もう信用できない。
  • あなたには私を良くする責任がある。

巻き込まれに要注意!訪問看護師が罪悪感を抱きやすいコミュニケーション

悪いのは全部私よね。迷惑をかけるだけだから、もうお願いするのやめるね。
私は一人でなんとかするから…。

そんなこと言わないでください。もう一回管理者に相談してみますね…

要求をはっきり伝えるのではなく、相手に罪悪感を抱かせることで思い通りに動かそうとする

こうしたコミュニケーションを(悪意がなくても)無意識のうちにとってしまう利用者がいます。

このような場面で、ついつい相手の意向をくみ取って、相手が望むような行動を取ってしまうことがあります。

これが習慣化すると、看護師自身が気づかないうちに無理を重ねてしまうことにつながります。

知らず知らずのうちに巻き込まれてしまう方は、以下のブログ記事を参考にバウンダリーの感覚を養ってください。


訪問看護師が共依存関係に陥りやすい利用者の距離感

訪問看護師が最も存在意義を感じる瞬間は、「私は利用者から必要とされているんだ」と実感する時ではないでしょうか。

「あなたが担当で良かった」と言われれば嬉しく感じるのは自然のことです。それ自体はノーマルなことですが、バウンダリー基礎講座でも説明した通り、感情の強さはバウンダリーにダイレクトに影響します。

その感情は、不安や怒りといったネガティブな感情だけではありません。嬉しい、喜び、安心といったポジティブな感情もまた、バウンダリーに影響を及ぼすため管理の意識が必要なのです。

  • 次の訪問日までが不安で仕方ない。あなたが来てくれないと落ち着かない。
  • あなたじゃなければ、もう訪問看護は受けたくない。
  • 私の気持ちを本当にわかってくれるのは、あなたしかいない。
  • 先生や家族には言えないけど…あなたには話せる。ここだけの話ね。

大切なのは、バウンダリーを「保つこと」ではなく「意識すること」

ここまで読んでみて、いかがでしょうか。

バウンダリーの大切さは頭では理解していても、実際の訪問の現場でそれを行動に移すのは、決して簡単なことではありません。

また、今の利用者との関係が「適切な距離を保てているかどうか」を判断するのも難しいものです。

でも、本当に大切なのは「バウンダリーを守ること」ではなく、「バウンダリーを意識する習慣を持つこと」です。

訪問看護の現場では、ときに「家族のような距離感」で支えることが必要な場面もたくさんありますよね。

その関わりが今の利用者にとって最善であれば、それ自体が間違いというわけではありません。

大事なのは、「今は家族的な距離感で支援している」と自覚し、チームで共有しながら、状況に応じて調整していくこと。

それができれば、利用者にとっても、看護師自身にとっても安全な支援関係を保つことができます。

常にバウンダリーの意識を持ち、点検する習慣をつくること。

そして、それを個人だけでなく、職場全体として取り組んでいくこと。

それが、訪問看護師として長く健やかに支援を続けていくための大切な力になるはずです。

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AIDERS 代表 山﨑正徳

公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。自身の燃え尽き・離職等の経験から、対人援助職のメンタルヘルスを向上させることを目的にAIDERS(エイダーズ)を開業。これまで、延べ4000人以上の対人援助職に対してバウンダリーやクレーマー対応などをテーマに講演を行っている。

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