消費生活相談員の悩みといえば、クレーム対応です。
日常的に、消費生活相談員の方からクレーム対応についてのご相談を受けます。
その中でよく耳にするのが、クレーム対応の知識や技術を身につけても、高圧的な人や自己主張の強い人を目の前にすると、どうしても怖くなってしまい、落ち着いた対応ができないという悩みです。
頭では「冷静に対応しよう」と分かっていても、相手の強い口調や威圧的な態度に圧倒され、言葉が出なくなったり、相手のペースに飲まれてしまったりすることがあります。

相談員になって2年になります。まだまだ勉強不足ではありますが、仕事にはだいぶ慣れてきました。
それでも、この仕事をしていると、どうしても強い相談者に当たることがあって…。昨日もなかなかわかってくれない相談者から、強い口調で責められました。
私はどうしてもそういうのが苦手で、冷静な対応ができないんです。身構えてしまうというか、慌ててしまって、言葉が出てきづらいんですよ。
まあ、ひどい時は「頭が真っ白」ですね。
このように、高圧的な人を前にすると、頭では「落ち着いて対応しよう」と思っていても、実際には緊張や不安が強くなり、思うように対応できなくなることがあります。
では、なぜ私たちは高圧的な人を前にすると、このような反応をしてしまうのでしょうか。そして、なぜそれに個人差があるのでしょうか。
ここでは、その「心のしくみ」と、落ち着いて対応するための心構えや職場の環境づくりについて考えてみます。
高圧的な人を前にすると、なぜ固まってしまうのか。
まずは、「高圧的な人を前にすると固まってしまう、冷静な対応ができない」という現象がなぜ起きるのかを説明します。
まず、こちらを見てください。
野生の動物をイメージしてもらえればすぐにわかると思いますが、動物は敵に遭遇した時、生き延びるために「戦う」か「逃げる」かの二択で行動しますよね。
勝てそうな相手ならば戦う。勝ち目がなければ命を守るために必死に逃げる。
生存するためにはこの二つの選択肢が必要なのです。
では、質問です。
動物が遭遇した敵があまりにも強大で、「戦う」ことも「逃げる」こともできない時、動物はどうすると思いますか?ここでスクロールを止めてちょっと考えてみてください。
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戦うことも逃げることもできない時、動物は「固まる」
実は、「戦う」と「逃げる」以外に、もう一つ別の選択肢があります。
それが、「固まる」です。
あまりにも強い恐怖で圧倒され、逃げることもできない時、動物は固まるのです。
敵に捕食されるとき、できるだけ痛みを感じない方が楽です。だから、体のスイッチを切ります。恐怖の感情もいりませんし、あれこれ葛藤しても無駄なので、思考と感情のスイッチを切ります。
パソコンで例えればスリープモードに近い状態になります。

まさに高圧的な相談者を前に固まってしまうあなたの状態に近いのではないでしょうか。
やるべきことは整理したつもりなのに、思考は混乱しまとまらない。
そして体が震え、力が入らない。言葉もうまく出ない。
自分が自分でなくなってしまい、なにもできない。ただただ相手の主張を聞き続けるだけ。
「蛇に睨まれた蛙」に近い状態になります。
このようにして固まる癖がついてしまうと、「固まる」→「より傷いてクレームが怖くなる」→「固まる」の悪循環に陥ります。
だから、頭ではわかっていても、クレームという刺激を受けるとあなたの中で勝手にセキュリティが発動し、固まってしまうのです。

消費生活相談員が固まりやすい3つの理由
ここまで読んで、「自分が高圧的な相談者を苦手なのは、気が弱いからなのではないか」と思った方もいるかもしれません。
でも、実は消費生活相談員という仕事には、高圧的な人を前にしたときに緊張が高まり、「固まる」という反応が起こりやすい環境があります。
電話相談は「一人で受け止める」ことになりやすい
一つ目は、電話相談です。相談者と相談員が1対1で話すことになるため、相手の強い口調や激しい感情を、基本的には一人で受け止めなければなりません。
病院などであれば、周囲のスタッフが様子を見て声をかけたり、対応を交代したりすることもできます。
しかし、電話相談では、そう簡単にはいきません。モニターをしてもらうことはできても、基本的には自分一人で相手と向き合うことになります。それだけでも緊張感は高まりやすくなります。
クレーム対応を相談員に丸投げしてしまう職場もある
二つ目は、職場の対応体制です。
職場によっては、クレーム対応を現場の相談員に任せきりにしてしまっているケースがあります。
行政職が「困った相談者が来たら、相談員がなんとか対応するもの」と考えてしまうと、相談員は高圧的な相談者を前にしても、一人で対応し続けなければなりません。
相手の言葉や態度に強い恐怖や緊張を感じても、「誰かに代わってもらえるかもしれない」「困ったら助けてもらえる」という感覚が持てないと、心理的な逃げ場がなくなります。
「この人と最後まで自分一人で対応しなければならない」という状況そのものが、相談員の緊張を高め、「戦うことも逃げることもできない」という状態につながりやすくなるのです。
公的機関だからこそ「電話を切りづらい」
そして三つ目は、消費生活相談員ならではの難しさです。
それは、公的な相談窓口であるがゆえに、相手がどれだけ高圧的であったり、悪質な暴言を吐いたりしても、「こちらから電話を切る」という判断が簡単にはできないことです。
相談者の話を聴き、問題を整理し、できる限り納得してもらうことが求められるため、「もうこれ以上は対応できない」と思っても、すぐに終わらせることが難しい場合があります。
このように考えると、高圧的な相談者を前にして緊張し、頭が真っ白になったり、言葉が出なくなったりするのは、単純に「あなたが弱いから」「対応力が足りないから」とはいえません。
むしろ、一人で強い感情を受け止め続けなければならない環境そのものが、相談員の心身に大きな負荷をかけているのです。
特に、相談員になって1~2年目など、まだ現場に慣れていない時期であれば、なおさらです。
どこまで対応すればよいのか、どのように切り返せばよいのか、これまでの経験から判断することが難しく、「このまま対応して大丈夫だろうか」という不安も生じやすくなります。
そこに「自分一人でなんとかしなければならない」という状況が重なると、緊張はさらに高まり、高圧的な相談者を前にして固まりやすくなるのです。

固まりやすい人の特徴とは?

なるほど…。よくわかりました。だから私はいつも固まってしまうんですね。
とはいえ、私は特にその傾向が強いと思います。その証拠に、私より後に入った方は、「怖かった!」なんて言いながらもけっこう落ち着いて電話に対応しているんですよ。
振り返れば、私はもともと強い人が苦手なんですよね。学校の先生とか、前の職場にも怖めの上司がいて、言葉に詰まる場面が多かった気がします。
固まりやすい人とそうでない人の差って、なんかありますか?
確かに、高圧的な人を前にしたときの反応には、個人差があります。
では、なぜ固まりやすい人と、比較的落ち着いて対応できる人がいるのでしょうか。その違いについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
一つの大きな違いは、「いざとなったら、別の行動をとることもできる」という選択肢を持っているかどうかです。
例えば、あなたが職場で上司からひどいパワハラを受けているとしましょう。
周りは誰も助けてくれず、上司の説教はまだまだ続きそうです。ここで、ちょっと考えてみてください。
あなたがこの状況から今すぐに抜け出すためには、何をすればよいでしょうか?ぜひ、ここでスクロールを止めて考えてみてください。
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答えは、いたってシンプルです。その場から離れればいいのです。
もちろん、実際の職場では「そんな簡単に逃げられない」と思うでしょう。仕事を放り出して帰るわけにもいきませんし、上司に言い返すことも難しいでしょう。
でも、ここで大切なのは、「実際に逃げるべきだ」という話ではありません。
「いざとなれば、この場から離れることもできる」「誰かに相談することもできる」「別の方法を選ぶこともできる」と思えるかどうかです。
例えば、
このように、いくつかの選択肢を持っている人は、目の前の相手から強い圧力を受けても、心のどこかに「逃げ道」があります。

一方で、「耐えるしかない」「私がなんとかしなければならない」「こんなことで弱音を吐いてはいけない」「相手を怒らせないようにしなければならない」「どうせ何を言っても無駄だ」と考えていると、少しずつ自分の選択肢を狭めてしまいます。
特に、真面目で責任感の強い人ほど、「こうあるべき」「ねばならない」と考えやすく、自分の行動を厳しく制限してしまうことがあります。
このように考えていると、高圧的な相談者を前にしたとき、「戦う」ことも「逃げる」こともできない状態になりやすくなります。
すると、前に説明したように、心と身体は「固まる」という反応を選びやすくなります。
つまり、固まりやすさには、その人の性格だけではなく、「自分には他にも選択肢がある」と感じられているかどうかも関係しているのです。

「なんとかなるさ」という感覚を取り戻す。
では、どうすればこの「選択肢」を増やしていけるのでしょうか。
大切なのは、「なんとかなる」「別の方法もある」という感覚を少しずつ取り戻していくことです。
そんな小さな選択肢を、一つずつ持っておく。「どうせ無理」「私にはできない」と最初から可能性を閉じてしまうのではなく、「もしかしたら、別の方法があるかもしれない」と考えてみる。
そうやって自分の中に少しずつ「逃げ道」を増やしていくことが、高圧的な人を前にしたときの心の余裕につながっていきます。
固まりにくい職場環境をつくる
こまで、高圧的な人を前にすると固まってしまう「心のしくみ」について説明してきました。
ただし、固まりにくくなるために、相談員一人ひとりが頑張ればよいということではありません。
職場全体として、「一人で抱え込まなくてもいい」と思える環境をつくることも、とても大切です。
クレーム対応は、相談員個人の問題ではなく、職場全体の問題として捉え、チームで対応することが基本です。
誰がどこまで対応するのか、どのような場合に行政職や上司へ引き継ぐのかなど、あらかじめマニュアルやルールを整えておくことも、相談員の安心につながります。
「困ったら誰かに相談できる」「自分一人で最後まで対応しなくてもいい」と分かっていれば、それだけでも心に余裕が生まれます。
そして、もう一つ大切なのが、困難な相談対応を終えた相談員への「労い」です。
暴言を受けたり、長時間にわたって強い口調で責められたりした後に、「大変だったね」「お疲れさま」と声をかけてもらえるだけでも、張りつめていた緊張は少しずつほどけていきます。
反対に、何事もなかったかのように次の電話対応を求められれば、相談員は緊張した状態のまま、また次の相談を受けることになります。
労いと助けあいこそ、相談員の緊張をほどく大きな力になるのです。
高圧的な相談者を前にして「固まってしまう」のは、相談員の弱さではありません。
だからこそ、個人の対応力だけに頼るのではなく、安心して相談対応ができる職場を、みんなでつくっていきましょう。




