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精神保健福祉士のバウンダリー(境界線)チェック|「一生懸命」の先にある燃え尽きを防ぐ

バウンダリー(境界線)

今回は、精神保健福祉士(PSW)のメンタルヘルスを良好に保つための「バウンダリー(境界線)」についてお話しします。

精神科医療機関や障害者施設、あるいは地域支援の相談機関。精神保健福祉士(PSW)が活躍するフィールドは多岐にわたりますが、どの現場でも共通して直面するのが、援助対象者との「距離感」の難しさです。

心の問題を抱える方々と深く関わる仕事だからこそ、相手の苦しみに共鳴し、知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでしまう。

実際、私のカウンセリングやセミナーには、これまで現場で踏ん張ってきた多くのPSWの方が参加されています。

また、これからプロを目指そうとする学生さんからも、切実な声が届きます。

・実習先で患者さんに感情移入しすぎてしまい、毎日疲れ果ててしまいました…。
・依存症のクリニックに勤めたんですけど、自分と境遇が似ている人の話を聞いていて、なんだかしんどくなってしまって。自分にPSWが務まるのか、心配です…。

こんな風に、自信を失いかけてしまうケースも少なくありません。

まさにそのとおりで、精神障害を抱えた方に寄り添い、その人生に伴走する仕事だからこそ、まずは「支援者自身のメンテナンス」が何よりも大切なのです。

「良かれと思って」入り込みすぎてしまい、いつの間にやら燃え尽きてしまうようなことのないように。

支援の現場で自分を、そして相手を守るための「バウンダリー(境界線)」という視点を、改めて一緒に確認していきましょう。

バウンダリーという言葉を初めて聞く方は、まずはこちらのブログ記事を読んでみてください。

上記のブログ記事では、バウンダリー(境界線)が保てない時に起きる問題を、「支配・被支配の関係」「共依存の関係」「無関心」という三つの関係性で説明しました。

それでは、安全な人間関係の距離感を保つために、どのような意識や気持ちで、利用者との距離を保つ必要があるでしょうか。ここから、チェックリストを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳 のプロフィールは こちら


摩擦が生じやすくなる利用者(患者)に対する考え方

  • なんとかして、この患者さんにお酒をやめさせないと!
  • 僕があなたを絶対に助け出す!
  • 他のPSWにはこの人を任せられない!私がなんとかしないと!
  • あなたと同じような苦しみを経験した私だからこそ、あなたのことを一番理解できる。
  • 私が担当で良かったと思ってほしい。嫌われたくない。
  • 私の期待する通りに自立・回復してほしい。

精神保健福祉士の皆さんは、本当に情熱的で、繊細な優しさを持っている方が多いですよね。

強い責任感や「何とかしてあげたい」という誠実な思いがあるからこそ、困っている人たちを粘り強く支えることができます。

ただ、その思いが強すぎるがゆえに、「専門職と利用者」という関係性がいつの間にやら家族のような親密な距離感になり、休日になっても気持ちの切り替えがうまくいかないなどして、燃え尽きてしまうケースも少なくありません。

安全に専門性を発揮するためにも、熱い思いは大切に、一方で自分を観察する客観的で冷静な視点も意識しましょう。

また、精神保健福祉士の熱意の裏側には、「職場環境の構造的なストレス」も隠れています。現場では人手不足や激務、低賃金といった過酷な状況に加え、他職種から「何でも屋」のように扱われたり、意見を軽視されたりと、無力感を感じやすい環境に置かれることも少なくありません。

こうした環境で働いていると、専門職としての存在意義を見いだせず、空虚さを募らせることも珍しくありません。

すると、その下がってしまった自信を埋めるために、無意識のうちに「目の前の利用者や患者に必要とされること」で、自分の存在意義を見出そうとしてしまう、共依存的な距離感になってしまうこともあるのです。


精神保健福祉士が共依存関係に陥りやすい利用者(患者)の距離感

精神障害を抱える方の中には、社会的な孤立感や深い寂しさを抱えている方も少なくありません。

そのため、親身に相談に乗る精神保健福祉士は、患者にとって極めて依存対象になりやすい存在です。

こちらがどれほど注意を払っていても、患者側から家族のような親密な関係性を求められる場面は多々あります。

「あなたが担当で良かった!」といった嬉しい言葉を投げかけられることも多いでしょう。

こうした言葉をかけられた際、素直に嬉しいと感じること自体は自然な反応であり、否定すべきものではありません。

しかし、その感情に流されて「巻き込まれない」ことが、専門職としては何より重要です。

称賛や親愛の情を向けられたときこそ、冷静に自分自身を観察し、専門家であり続けられる適切な距離感を意識して行動することが求められます。

  • 私の担当があなたで本当に良かった!あなたがいなければ私は転院するからね!
  • 私の気持ちを本当にわかってくれるのは、あなたしかいない。
  • 先生や家族には言えないけど…あなたには話せる。ここだけの話ね。
  • あなたの言う通りに動きます。医者も保健師もみんな冷たくて、誰も頼れる人がいないし、あなたを心から信頼しているから。

精神保健福祉士がコントロールを受けやすい利用者(患者)の距離感

次は、利用者からの「精神保健福祉士に対する思いの強さや考え方」がどのように関係性に影響を及ぼすのか、説明していきます。

当たり前のことですが、いくらこちらが距離の取り方に気を付けていても、利用者の距離感の影響は必ず受けてしまうものです。

「私がこんなに辛いんだから話を聞いてください!見捨てるわけ?!」

このように要求が強いとコントロールを受けてしまうこともあるでしょう。

  • おれが酒を飲むのはおまえらの対応が悪いからだ!
  • 僕はトラウマがあって感情のコントロールができないんだから、多少の暴言くらい許容しなよ。あなたに僕の気持ちなんてわからないでしょ?
  • あなたはメンタルヘルスの専門家でしょ?だったら、私のこの苦しみを今すぐに取り除きなさい。なんでできないの?
  • ●●先生にあんたのことを言いつけるからな!

閉鎖的な環境が生む、支援者と利用者の「危うい一体感」

PSW
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社会に出たら、これくらい厳しいことは当たり前だよ。パワハラなんてどこにでもあるんだから、今のうちに慣れておかないとね。

かつて「作業所」と呼ばれていた就労継続支援事業所や、リワークデイケアといった支援現場で起こりやすい現象があります。

これらは小規模な組織であるからこそ、外部の目が届きにくく、時に「風通しの悪い空間」になってしまうリスクを孕んでいます。

こうした閉鎖的な環境では、支援者個人の道徳観や「これが社会の常識だ」という強い正義感が、いつの間にかその場の絶対的なルールになってしまうことがあります。

それは極端に言えば、特定の価値観が支配する宗教のような空気です。

精神障害を抱えて自信を失っている方は、どうしても支援者の顔色をうかがい、コントロールされやすい状態にあります。

その「弱さ」に対し、支援者が無意識のうちに、「個人的な道徳的価値観」や「自分に取っての正しさ」を刷り込み、自分色に染めていってしまう。

よそから見れば「それは本当に支援なの?」と首をかしげるようこの関係性は、「支援者」がいつの間にか「支配者」にすり替わってしまっているのです。

PSW
PSW

他の場所ではあなたのことは理解されない。みんな何もわかってないからさ!だから、ここを頼りなさい!

また、地域の支援機関や医師を「あそこは分かっていない」と否定し、利用者を囲い込んでしまうようなことも起こります。

これは一見、利用者への強い味方に見えますが、実際には相手から「外の世界と繋がるチャンス」を奪う行為です。

閉鎖的な環境にいると、どうしても自分の視界が狭くなりがちです。

支援者が良かれと思ってやっていることが、知らず知らずのうちに相手を縛り付けていないか。

常に「外の風」を入れ、自分と利用者の関係性を見つめ直す勇気が必要なのです。

すべての小規模施設が上記に当てはまるという意味ではありません。地域に開かれ、透明性を保ちながら真摯に活動している施設がほとんどです。しかし、小規模なコミュニティゆえに、一度バランスを崩すと自浄作用が働きにくく、こうした閉鎖性に陥る危険性を常に孕んでいるという点は、忘れてはならない視点です。


自分の「痛み」を支援に重ねてしまうとき

次に「精神保健福祉士としての志が利用者との関係性に及ぼす影響」について説明します。

私自身もこれまで精神保健福祉士として、精神科医療機関や相談機関など、さまざまな支援の現場に身を置いてきました。

そこで出会った多くの仲間たちの「支援を志す動機」は、本当に一人ひとり違います。

中でも少なくないのが、自分自身がメンタルヘルス問題を経験したり、複雑な家庭環境の中で傷ついた体験を持っていたりするケースです。

「あの時の自分のような人を救いたい」「自分の経験を活かして困っている人たちの力になりたい」という思い。

その志は、本当に素晴らしいものであり、 「人の痛みがわかる」ということは、対人援助職として大きな土台になります。

だからこそ、注意も必要なのです。

感情移入しすぎて燃え尽きてしまう人を、私はこれまで多く見てきました。

患者さんの話が過去の自分と重なり、予期せぬフラッシュバックに襲われて感情のコントロールが効かなくなる。

あるいは、かつて自分が支援を受けた際、医師などの対応に不満を募らせていた経験が、今の支援を歪めてしまうこともあります。

  • あの時の私を救ってくれなかった人たちと同じにはなりたくない!
  • 「結局、普通の家庭で育った人たちにはこの苦しみはわからないんだ。やっぱりこの人を救えるのは私しかいない!


このような思いが、本来は良好なネットワークを築くべき医師、同僚や関係機関への不用意な攻撃に繋がってしまう。

結果として、ケースを一人で抱え込み、最も守るべき存在であるはずの患者に不利益を被らせてしまうこともあるのです。

「良かれと思って」やっていることが、いつの間にか「自分自身のための支援」にすり替わっていないか。

「苦しかった過去」を「現在の支援」に生かすために、対人援助職には定期的に自分と向き合い自己理解を深める姿勢が大切です。


利用者(患者)と安全な人間関係の距離感を保ちやすい考え方

  • 私は精神保健福祉士としての専門性に基づいてあなたを支援する。
  • 私にできることには、医療的・制度的な限界がある。
  • 私はあなたの生活の困りごとを一緒に整理し、必要な支援をチームで考える。
  • 私はあなたと対等な立場で関わる。
  • 私はあなたが自分の力で体調管理や生活改善に取り組めるよう、サポートする。
  • あなたには、支援方針や担当スタッフを選ぶ自由と責任がある。

これまで紹介した「摩擦が生じやすい距離感」と比べると、だいぶ安全性が保たれる考え方になります。

仕事とプライベートの境界線を明確に分けることにつながる考え方でもありますから、「精神保健福祉士も利用者も守る距離感」です。

「思いの強さ」はあっても、冷静さを保ち、なおかつ自分の役割と責任に基づいて行動できる考え方です。


大切なのは、バウンダリーを「保つこと」ではなく「意識すること」

ここまで読んでみて、いかがでしょうか。

バウンダリーの大切さは頭では理解していても、実際の現場でそれを行動に移すのは、決して簡単なことではありません。

また、今の利用者との関係が「適切な距離を保てているかどうか」を判断するのも難しいものです。

でも、本当に大切なのは「バウンダリーを守ること」ではなく、「バウンダリーを意識する習慣を持つこと」です。

精神保健福祉士の現場では、ときに「家族のような距離感」で支えることが必要な場面もたくさんありますよね。

その関わりが今の利用者にとって最善であれば、それ自体が間違いというわけではありません。

大事なのは、「今は家族的な距離感で支援している」と自覚し、チームで共有しながら、状況に応じて調整していくこと。

それができれば、利用者にとっても、精神保健福祉士自身にとっても安全な支援関係を保つことができます。

常にバウンダリーの意識を持ち、点検する習慣をつくること。

そして、それを個人だけでなく、職場全体として取り組んでいくこと。

それが、精神保健福祉士として長く健やかに支援を続けていくための大切な力になるはずです。

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AIDERS 代表 山﨑正徳

公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。自身の燃え尽き・離職等の経験から、対人援助職のメンタルヘルスを向上させることを目的にAIDERS(エイダーズ)を開業。これまで、延べ4000人以上の対人援助職に対してバウンダリーやクレーマー対応などをテーマに講演を行っている。

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