毎日忙しく働く対人援助職にとって、どうしても悩ましく感じる場面のひとつに「何度も同じ質問や相談をする利用者に時間をとられてしまう」ことが挙げられるのではないでしょうか。
実際、このような話はとても多く伺いますし、私自身にも同じような経験は何度もありました。
それでは、「不安で何度も同じ質問や相談をしてくる人」に対してどのような対応が必要なのでしょうか。今回は、対応のひとつのヒントとして記事を書いていきます。対人援助職の方はもちろん、またお子さんや友人、職場などでも役に立つと思いますので、ぜひ読んでみてください。
「この前も言ったでしょ?何回同じ相談をしたらわかるの?」
まず、私がカウンセラーの仕事をしていた中学校で、実際にあった生徒と先生のやりとりを紹介します。
明後日からの修学旅行がやっぱり不安なんです…。同じ班のみんなに仲間外れにされないかなと思って…
大丈夫だよ。昨日も言ったじゃない。先生だっているし、それにAちゃんとBちゃんとは毎日仲良く話してるじゃない。
はい。でも、向こうに着いたら、二人は「私なんかと一緒にいたくないんじゃないかな」とか思っちゃって。「やっぱり、私は行かない方がいいかな」とか思っちゃって
なに言ってるの、そんなことないよ。大丈夫だから。
うーん…仲間外れにされたらどうしようかな
昨日も言ったでしょ?そういう時はどう考えればいいんだっけ?
あ、はい、悪く考えないで、前向きに考えればいいんですよね
そうだよ。だから大丈夫だから
でも、本当に大丈夫ですかね
大丈夫だから、ほんとに
でも、不安で…
大丈夫だってば。心配しすぎだから
でも…
(話を遮って)だから、大丈夫だってば!もう余計なことは考えないで。前向きに!わかった?
・・・・・・
ここまで読んでみて、あなたはこの二人のやりとりをどう感じますか?
きっと皆さんも、場面は違えど、同じようなやりとりをした経験があるのではないでしょうか。何度助言をしても、それでも同じように不安を訴える相手。あなたが一生懸命に相手を安心させようと、あれやこれやと手を尽くして話をして、言い聞かせても、また翌日には同じようなことを相談される。
まさにここで紹介した二人のやりとりもそうでした。この先生はとても熱心で、カウンセリングも勉強している方だったのです。だから、それまでも一生懸命に生徒の話を聴いて、ネガティブな考え方を正してあげようと関わっていたようです。とても熱心な生徒思いの先生ですよね。
それでも、生徒は何度も同じ訴えをしてきます。先生もさすがに辟易してきて、最後はややイラついているようにも見えました。お気持ちは本当によくわかります。話を遮りたくなるのも仕方ないと思います。私は、この先生の対応が悪いとは思いません。
ただ、このように「相手を正そうとする」やり方に終始してしまうと、うまくいかないことが多いのもまた事実ですよ。
ここで、あなたに考えてもらいたいです。あなたなら、このようなやりとりが続いた時に相手にどのように関わりますか?この先生の立場なら、どのように声をかけますか?
実は、私はこの二人のやりとりをすぐ傍で見ていて、生徒にたった一言だけ声をかけました。そしたら、その一言で生徒が落ち着いて、それから同じ訴えをせずに修学旅行に行くことができたのです。ここでブログを読み進めるのをやめて、少しだけ考えてみてください。
「何を言われても安心できない相手の気持ち」に共感する。
その時に私がその生徒にかけた言葉は、こうです。
何を言われても安心できないんでしょ?
これだけです。
私は、その生徒の不安を取り除こうとするのではなく、「不安で不安で仕方がなくて、どんな助言をもらっても安心できない気持ち」に共感したのです。
すると、生徒は「はい、そうなんです。本当に安心できないんです」と言った後、「ありがとうございました!」と自分から話を終えて教室に戻っていきました。きっと、その生徒は「何を言われても安心できないほどの強い不安」を理解してもらいたかったんでしょうね。そこをわかってもらえたから、落ち着いたのだと思います。
先生は「あれだけでいいんですか?!私の努力は何だったんですかね…」と呆気に取られていましたが、むしろ先生があれだけ言ってくれた後だからこそ、私の言葉が活きたのかなとも思います。
「相手を導く助言」はもちろん大切です。
でも、大前提として必須なのは「相手の気持ちを想像する力」です。
私はよく介護や福祉、医療の現場などで働く対人援助職の方から相談を受けますが、援助職の方は相談を受けると、「なんとか解決してあげなきゃ!」という思いが強くなりがちです。また、学校の先生は「解決」というよりも「先生にとっての正しさ」を押し付けてしまう傾向が強いのかなと思います。
それでうまくいけばいいんですけど、実際にはそうはいかないことばかりですよね。そこで余裕のない援助職は、いつの間にか「どうしてできないのか」「もっとこうするべきだ!」と言って、相手を「正す」ことが目的になってしまいます。そうすると、大抵は行き詰まって関係が悪くなるか(虐待のリスクも上がります!)、答えを求める相手に過度に依存されるかの二択です。
親子関係でも同じことが言えると思うんですが、子どもが不安で何回も同じことを聞いてくる時に、怒って「さっきも言ったでしょ?」と言うのは簡単ですけど、きっとそれでもすぐに同じことを聞かれますよね。
それよりも、「安心できないんだね。お母さんにもそういうこといっぱいあるよ」と言ってあげる方が意外と簡単に済むのです。もちろん、この対応で必ずやりとりが終わるというものではありませんが、毎回同じパターンになって疲れてしまう方は、ぜひ参考にして頂きたいです。
また、今回紹介した対応は、相手とそれなりの関係が築けていることが前提です。信頼関係が十分でないのに、「不安なんですよね」なんて言って逆に怒らせてしまうこともありますので、気をつけてくださいね。
自分の気持ちを大切にしている人は、相手の気持ちも大切にできる。
最後に補足すると、相手の気持ちに寄り添う対応が苦手で、いつも「相手を正そう」と働きかけてしまう人は「日常的に自分の気持ちを抑圧している人」が多い印象を受けます。
相手が「不安で仕方ないんです…」と言っている時に、「もっと前向きになれ」「そんなんじゃダメだ」「考え方を変えろ」しか言えないということは、つまり自分自身に対しても同じ言葉をかけている傾向が強いのです。
「不安になってなってはいけない」「乗り越えないといけない」みたいに、「こうあるべき」という思考で物事を捉え、ストレスを乗り越えようとします。 だから、人にも同じようなことしか言えなくなるし、そういう人は心に余裕がないので相手を責めてしまうんですよね。
逆に、自分の気持ちを大切に扱っている人は、寄り添うのが上手です。
わかる!私も新入社員の時は不安で仕方なかったもん。お客さんに電話をかける時、手が振るえたよー
自分の不安をありのままに受け入れているから、目の前の相手の不安を想像して、気持ちに寄り添うことができるんですよね。
対人援助職でこれが苦手な人は相談対応に苦労しやすいですし、燃え尽きのリスクが上がりやすくなります。あくまでも私の印象ですが、自分の気持ちを大切にしていない援助職は、どうしても共感が苦手になるのでテクニックに頼る人が多いですね。
親子関係でも、親が子どもの気持ちに寄り添えないと、不登校などのトラブルにつながりやすくなります。会社の管理職もそうです。部下にいつも正論や精神論を押し付け、相手を変えようとばかりするのでいつまでも信頼関係が築けません。
あなたはいかがでしょうか?もし、あなた自身が自分の気持ちを大切にできていないと感じるなら、まずは自分の気持ちを大切にすることから始めてみませんか。そうするだけで、話を聴くことが今よりも楽になり、人間関係が大きく変わるかもしれません。