今回は、いわゆる「悪質なクレーマー」「モンスター患者、モンスター利用者」などと呼ばれてしまう人たちが、相手をコントロールするためによく行う手法(行動のパターン)を紹介いたします。
先に断っておきますが、今日紹介する手法は、相手がモンスターかどうかを判別するものではありません。障害や病気などの影響で、悪意なく無自覚にやってしまっていることもよくありますので、「このブログに書いてある行動に当てはまるから、あの患者はきっとモンスターだ!」などと決めつけて相手への敬意を欠く対応をとることのないよう、取り扱いにはくれぐれもご注意ください。
あくまでも、援助職が相手のコントロールに巻き込まれずに、落ち着いて適確な対応がとれるようになることを目的に解説していますので、そこをご確認の上で読んでいただけると嬉しいです。
ダブルバインド(二重拘束)
ダブルバインドとは、二つの矛盾したメッセージで相手を縛り付けることです。
黙ってないでなんとかいってみろ!
すいません。今日はもう対応できないんです…。
なんだと!何様だ!
・・・・・・・・
おいおい!また黙っちゃったよ。
「黙ってないで何とか言ってみたらどうだ!」と患者が看護師を怒る。看護師が恐る恐る自分の意見を言うと、「なんだその言い方は!生意気なこと言うな!」とさらに怒る。そこで看護師が怖くて黙ると、「また黙ったよ。なんなんだまったく!」と怒る。結局は何をやっても怒られるわけです。
ダブルバインドのポイントは、「力関係により相手に矛盾を指摘できないこと」です。
私は群馬県出身で、高校の頃は駅によくヤンキーがたむろしていました。そのヤンキーが通りすがりの学生に絡む時って、大体が「おまえ、今見てただろ」と言うんですよね。
「見ていません」と言っても「見てただろ、おい、お前なに嘘ついてんだよ」と怒る。
「見てました」と言おうものなら「なに見てんだよ。なめてんのか?」と怒る。
結局何を言っても怒られるし、矛盾を指摘したらさらにキレられてしまいます。だから、黙って耐えるしかない。これがダブルバインドです。
怒った後に急に優しくして、相手を揺さぶる。
人間は、恐怖を感じる相手から急に優しくされると、なぜかとても嬉しくなることがあります。
毎日毎日暴言を吐き、悪態をつく利用者が、急にあなたに「ありがとうね。あなたがいないと私なんて今頃どうなってるか。他の看護師は私が嫌でみんな家に来なくなっちゃったから、あなただけだよ。これからもよろしくね」と普段見せない優しい一面を見せる。
普段その利用者には恐怖と嫌悪感しかなかった訪問看護師が、予期せぬ言葉に喜びを感じ、「この人は本当は優しい人なんだ!」「私しかこの人のことを理解してあげられない!」と巻き込まれて自分から距離を縮める。それでこの利用者の暴力がなくなればそれでいいんでしょうけど、実はそんなに綺麗に話は終わらず、そこから暴力行為がエスカレートすることも珍しくありません。
暴力行為 → 優しくして一時的に良い関係になる → 再び暴力行為 → また優しくする
まさにDVの関係と同じです。前に私が勤めた職場でも同じようなことがありました。ある暴力的な患者さんを「職場としてお断りするべきだ」という意見がスタッフの中で大多数を占めていたのですが、「あの患者さんはとても心が優しい人なんです」と主張して、断固として反対する看護師さんがいました。実はその看護師こそ、その患者さんから最も被害を受けていた担当看護師だったのです。
管理職など、「お断りする権限」がある人には従順。弱い立場の現場のスタッフには強気。
普段、悪質なクレーマー対応の相談を受けていると、「この人は他のところでも迷惑行為をして、いくつかお断りされてきてるんだろうな」と感じることがあります。
そういう人の特徴としては、現場のスタッフには超強気の一方で、役職者などが出てくると急に物分かりがよくなったり、さっきまでの勢いがトーンダウンしたりすることがある、ということです。きっと、「役職者が出てくると、クレーマーと認定されて組織的な対応をされるリスクがある」とわかっているのだと思います。
そういう人は、できるだけ権限を持たない現場のスタッフと密な関係を築き、コントロールをしようとする傾向があります。
そして、スタッフが困って役職者に相談し、役職者が出てくると手の平を返したかのように大人しくなる。
こんなパターンはよく見られます。
ここで最も大切なことは、「役職者が巻き込まれないこと」です。
クレーマーと良い関係を築くことができた役職者が、「話をしてみたら、あの人素直で悪い人じゃないじゃないの。みんな大騒ぎしすぎなんだよ。もっと患者さんの気持ちに寄り添って聴いてあげないと」と、スタッフの対応の問題として終えてしまう。これは本当によくある「悲劇」で、これを続けると現場のスタッフは上司に絶望して辞めていきます。
現場を混乱に陥れるクレーマーと役職者が良い関係を築けた時、意識すべきことはひとつ。
「クレーマー対応がうまくいったのは私の対応が良かったからとは言い切れない。私には役職者というパワーがあるからうまくいった可能性が十分にある」と思ってください。
「死」を想起させる発言をして、援助職の不安を煽る。
そんな対応をされると、死にたくなっちゃうんです。うつ病だからできるだけ楽に過ごすようにと主治医から言われています。そちらの対応で、私がショックを受けて自殺してしまうようなことがあったら、責任とれるんですか?
このような言葉を投げかけられ、相手の術中にハマりコントロールを受けている援助職は少なくありません。(もちろん、本当に死にたいという思いで言っている人もいるので、ケースバイケースです。今回は悪質なクレーマーに限定して説明していますのでご理解ください)
例えば、訪問介護ヘルパーが精神科に通院中の利用者から無理な要求をされ、断るたびに「自殺したくなる」と言われ、怖くて相手の要求に従ってしまう。こういうことはよくあります。
これについて簡単に助言すると、できない要求ははっきりと断るべきです。
そこで死にたいと言われた場合、「死にたいという気持ちを和らげるために、相手の無理な要求に応じること」は介護職の役割ではありません。大切なのは、すぐに関係者と情報を共有して対応を検討すること。これが原則です。
「要求を断ると希死念慮が強くなる利用者さんに、組織としてどこまで関わるのか」「今後もサービスを提供することが可能なのか」という問題として捉えましょう。
相手に悪意があるかどうかは関係なく、「死にたい」と訴える利用者への対応は、ヘルパーが一人で抱え込んであれこれ頭を悩ませる問題ではないことを肝に銘じてください。
「今すぐに」要求に応じることを求める。
はじめに説明された内容とは違うので困っています。確認してもらえませんか?ちょっと急いでいるので、できるだけ早めにお願いしたいです。
コミュニケーションがとりやすいお客さんは、このように、こちらに時間的なゆとりを与えてくれますよね。
尊重されている感覚が得られて、安全を感じやすいと思います。
一方で、こちらはどうでしょうか。
・できるの?できないの?私が困っているんだから、今すぐにやりなさい。
・それならあなた達は何のためにいるんですか?根拠を教えてください。早く答えなさい。
クレーマーと呼ばれてしまう人たちは、「今すぐに」返答を求める傾向があり、それにより相手に与えるプレシャーがかなり強くなります。これをやられると、焦って一気に緊張感が強くなり、心臓がドキドキして呼吸が浅く苦しくなり、冷静な対応が困難になりますよね。
こういう場合は、相手に巻き込まれないようにするために「間」を作ることに専念する方法がお勧めです。
・大切なことですから、上司に報告して検討させてください。一度電話を切らせていただきますね。
・お急ぎなのはわかりましたが、私一人で決められることではありませんので改めてお返事させてください。
それでも相手が怒ることは当然あると思いますが、慌てて回答をして上げ足を取られるよりはマシです。とにかく、間をつくることを意識しましょう。
ここまで読んでみて、いかがでしょうか。どのタイプも手ごわくて、怖くて、スムーズな対応が難しいですよね。
ただ、暴力的な利用者への対応は、ドラマのようにスムーズに上手にできるようになる必要はありません。
戸惑って、恐れて、緊張して、うまく言葉が出ない。家に帰ってから「〇〇と言っておけば良かったのに」と自分の対応を悔やむ。これが普通だと私は思います。
緊張すると、人間は頭が真っ白になるし、落ち着いた行動はできませんから、仕方がないです。
だからこそ、職場で全員が力を合わせて対応しましょう。自分たちが置かれている状況や、相手との関係性などを正しく理解して、みんなで乗り越えること。担当者を一人にしないこと。
この意識が大切です。