ケアマネージャーを対象にしたクレーム対応の研修を行う中で、よく耳にする悩みがあります。
それは「利用者家族が電話をなかなか切ってくれない」というものです。
ただでさえ業務に追われているのに、電話の内容が利用者本人のことではなく、家族自身の悩み相談に広がってしまう。
そんな状況に困っているケアマネは少なくありません。
ここからは、実際に寄せられるケアマネさんたちの声をもとに、「電話を切ってくれない家族」の事例を切り口に、無理な要求への対応を一緒に整理していきます。
「どうしたら電話をきってくれるのでしょうか…」

利用者家族への対応で困っています。
この一か月ですが、ほぼ毎日のように電話がかかってくるんです。
利用者の話であればまだよいのですが…、自分の心配ごとや不安なこと、お友達との関係など、ずっと自分の悩み相談が続くんです。
忙しいし付き合えないのでこちらも電話を切ろうとタイミングを見計らうのですが、それでも15分はかかります。
長いと30分、すごい時は1時間切ってもらえなかったこともありました。
一度、思い切って「そういう電話は控えてください」と伝えたことがあります。
その時は「わかりました」と言ってもらえたのですが、そこからは利用者の話題から入り、気づけばまた自分の話へと続いていくようになりました。
切ろうとすると「冷たい」と怒られたこともあります。どうしたら電話を切ってくれるのでしょうか。
ただでさえ忙しい中で、親身に家族の話を聞くというのは本当にすごいことです。
ケアマネの皆さんはみんな一生懸命ですし、家族にも丁寧に関わる姿勢はとても素晴らしいと思います。
ただ、当たり前ですが、その分疲れてしまうこともありますよね。
しかもこのケースのように、対応した分だけ依存されてしまうと、余計に辟易してしまいます。
「もういい加減にしてくれ!!」
心の中でそんな風に叫んでいるのではないでしょうか。
人間関係の三本柱とは?
クレーム対応の心構えとして、私は普段「人間関係の三本柱」で整理することをお勧めしています。
- 目的(相手にどうしてほしいか)
- 人間関係(相手とどのような関係でいたいか)
- 自尊心(どんな対応をすれば後悔しないか・自分はどうありたいか)
今回の利用者家族との関係について、この3つそれぞれを考えていきます。
以下、あくまでも例文です。
- 目的(相手にどうしてほしいか)
→ 「電話を切ってほしい!そもそも電話をしないでほしい!」 - 人間関係(相手とどのような関係でいたいか)
→ 「もめたくない。できるだけ良い関係でいたい」
このように、「電話を切ってほしい」と思う一方で「揉めたくない」と考える。
これはとても自然なことですよね。
だから利用者家族の気持ちに配慮しながら、電話を切ってもらえるように丁寧に対応しているのです。
ただ、それでも電話を切ってもらえないことで困ってしまうのですよね。
「目的」を優先するなら、迷うことはほとんどありません。
利用者家族との関係が壊れても構わないと割り切り、電話を切ればいいだけだからです。
一方で「人間関係」を優先すれば、利用者家族とは良い関係を保てます。
しかしその場合、いつまでも目的は果たせません。
だからこそ、迷い、悩んでしまうのです。
だからこそ、カウンセラーに「どうしたら電話を切ってくれますか?」と相談するわけです。
つまり、「人間関係」を壊さずに「目的」を果たしたい。
「利用者家族を怒らせることなく、電話を切ってもらえる方法はありませんか?」という魔法のような対応策を探しているのです。
大切なのは「職場としての自尊心」
ここで大事になってくるのが「自尊心(どんな対応をすれば後悔しないか・自分はどうありたいか)」です。

本当は揉めたくないけれど、これ以上電話に付き合うと他の利用者さんに迷惑がかかるし、職場も回らなくなるよね。
怒るだろうけれど、電話は断らざるを得ないな。はっきり伝えて、対応するのはもうやめよう!
こうした判断が求められる場面では、職場としてどうありたいのか、どうあるべきなのかが問われます。
利用者や家族、従業員、地域社会に対して、うちの職場はどうあるべきなのか。
この視点こそが職場の自尊心であり、同時に職場の境界線となります。
クレーム対応は、この自尊心と境界線を意識することが出発点になるのです。
境界線の引けない職場で働く人は「自尊心」が下がる。
職場としての境界線が引けないと、どうしても利用者との人間関係を優先することになってしまいます。
「怒らせないように」「揉めないように」という思いが先行し、いつまでも電話が切れず、要求を断ることも難しくなります。
当たり前のことですが、そこで働く人たちはクレーマー対応に忙殺され、疲弊し、自分のことを惨めに感じるようになってしまうのです。
「どうしたらいいですか?」ではなく「職場がどうしたいか」
ここまで読んでいただければ理解できると思いますが、「電話を切ってもらえる魔法のテクニック」は残念ながら存在しません。
そのような幻想は手放してください。
むしろ、そうした方法に頼ろうとすること自体が、問題の根本的な原因になっています。
「どうしたらいいですか?」と悩むのではなく、自分たちの職場がどこまで関わるのか、どうありたいのかという軸を整え、主体性を持って対応することこそが、クレーム対応の柱になるのです。
相手を納得させる必要はない。

もう電話対応はできない、とはっきり伝えました。でも、それでも全然わかってもらえなくて、その電話も結局40分です。
最後は「見捨てるのか」「冷たい」とか言われて、全然ダメでした。方針は決めたけど、わかってもらえなくて困っています。
ここで大切なのは、相手に伝えても必ずしもわかってもらえないことがある、ということです。
納得させることにこだわっても、結局やりとりは何も変わりません。
納得してもらえなくても構わないのです。
相手は怒るかもしれませんし、不満を持つかもしれません。悲しむこともあるでしょうし、冷たいと思われることもあるでしょう。
それでも、職場としての限界は当然ありますし、それは仕方のないことです。
相手の感情の責任まで背負う必要はありません。
大切なのは、納得してもらうことにこだわるのではなく、職場としての限界を判断し、それを明確に伝えて行動に移すことです(もちろん、相手の気持ちに配慮しながら行動することは前提です)。
要するに、ここで必要なのは「腹を括ること」です。
これをしっかりと実行していきましょう。
まとめ
今回のように、利用者家族から長時間の電話や依存的な相談を受けると、とても疲れてしまいますし、どう対応すればよいか迷ってしまうのは当然です。
しかし大切なのは、相手を納得させることではなく、職場としての限界を明確にし、自分たちがどうありたいかを軸に行動することです。
魔法のような解決策はありませんが、自分たちの軸を意識することで、迷いを整理し、落ち着いて対応できるようになります。
忙しい中でも親身に関わるケアマネの皆さんの姿勢は本当に素晴らしいです。
その努力を無理に全て相手に理解してもらおうとせず、職場としての自尊心と境界線を守ることを大切にしてください。
迷ったときは、この軸に立ち返り、「腹を括ること」を意識して対応していきましょう。
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