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「自分が安心したいこと」を「心から望んでいること」だと思い込んでいるから、いつまでも苦しさから抜け出せないのではないですか?

メンタルヘルス

「自分としては順調なのに、なぜか心と体がついていかない」

このような相談を受けることが、この数年でとても増えた印象があります。

目標をもって仕事を頑張り、「達成できている、充実している」と自分では思っているのに、それとは逆行するように気持ちが沈んだり、疲れやすかったりするというのはとても戸惑い、どうしたら良いのかわからなくなってしまいますよね。

本当に辛いことだと思います。

今回は、そのような悩みを抱える方が「自分を見失うパターン」としてよく見られるものを紹介します。

誰もが陥る「悪循環の落とし穴」とも明言できるほどに重要なことですから、ぜひご自分のことを振り返ってみてください。

まず、ある看護師さんの悩みを紹介いたします。

昨年、看護師長に昇進しました。周囲からは順調にキャリアアップしていると思われていて、私もそう思っています。特に大きな悩みを抱えているわけではなく、師長の仕事もだいぶ慣れてきたと思うのですが、どうもこの数カ月、なんか悲しいような、満たされないような気持ちになります。加えて、なんだかやる気がおきないというか、疲れやすくて体調が悪いんです。

夫からは「昇進のストレス」と言われます。まあ、そうなんだと思いますが、でも昇進は私が望んだことなんですよ。来年子どもが大学に進学するのでお金もかかりますから、もっと頑張らないといけないですよね。もともと私は上昇志向が強いんです。親からは「一人でも生きていけるように、なにか資格をとって、自立した大人になりなさい」と言われて育てられて、それもあって看護師になりました。「困難は頑張れば乗り越えられる」と思って、そうやって生きてきました。だから今も、頭ではもっと前に進みたいんです。でも、なんか気持ちがついていかないんです。これはどういうことなのでしょうか…。今の自分の状況が、よくわからなくて困っています…。

ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら


原因不明の心身の不調の原因とは?

今回は私の実体験を交えて、説明していきます。

私は2025年現在、開業して9年目になります。

今でこそありがたいことに様々な仕事が増えてそれなりに忙しく過ごしておりますが、開業当時は仕事が少なかったために、スクールカウンセラーや精神科クリニックなどの仕事を掛け持ちしながら生活していました。

当時の年齢は36歳で、幼稚園に通う子どももいたため、私は文字通り毎日必死でした。

「少しでも仕事を増やして、家族を養わなくてはいけない」「スキルをたくさん身に着けて、専門家として少しでも成長しなければならない」

頭の中はいつもこのようなことばかりで、先のことを考えては不安になっていました。

とにかく仕事を増やしたい。家族に安心してもらいたい。その一心だったことを覚えています。

そのような中、様々なご縁に恵まれて私の仕事は年々増えていき、開業5年目には週休1日が当たり前なほどに忙しくなったのです。

「ようやく仕事が増えて良かった。努力が実った!」「このまま頑張って働いて、どんどん仕事を増やそう!」

私は嬉しくて、どんな仕事も依頼を受ければ断らずにこなしていきました。

働きづめでしたが、まさに私が望んでいた生活を手に入れたのです。

ところが、です。

私は徐々に、自分の心身が正常ではないことに気づき始めます。

仕事中は問題ないのですが、仕事以外の場面で、慢性的なだるさや無気力感、そしてイライラした感じが抜けなくなっていきます。

初めは「最近忙しいからだな」と思っていましたが、仕事が忙しいだけの疲労とは明らかに違う体調不良であることは明らかでした。

「なにかストレスがかかっているんだろう」とは思ったのですが、「仕事が忙しい」以外の理由が特に思い浮かばず、「自分が望んでいた生活を手に入れたのに、なにがストレスなんだろう?」と戸惑うばかりだったのです。

自分が望んでいたことは、「安心したいだけ」のことでしかなかった。

私は内省を続けたところ、ようやく自分が不調に陥っている原因にたどり着きました。

それは、私が表面上望んでいた「仕事が多い生活」は、私にとって「安心したいだけ」のものでしかなかったということです。

「仕事がなくなったらどうしよう」「家族に迷惑をかけたくない」という気持ちは、私にとっての大きな不安材料であり、この不安を安心に変えるべく、日々奮闘していたのです。

専門家として情けないことですが、私の行動は「不安ベース」であったのだと思います。

また、体力のある30代のうちはガムシャラさも楽しかったのだと思いますが、年齢も40代に入り、それまでとは自分の価値観も変わってきていたのでしょう。

「ガムシャラになんでもこなす自分」「どんな仕事も断らず、前向きに頑張る自分」に対する限界がきていたのです。

そもそも私は、子どものころからマイペースで自由を好む性格でした。

集団行動が苦手で、一人でのんびり過ごすことを好みます。

教室では、一番後ろの端の席が大好きでした。

「目標に向けて努力をする」というよりも、「その日を楽しく過ごす」タイプで、決してストイックではありません。

思い返せば、私がこれまで勤めた職場を辞めてきたのも、不自由さを感じたことが多かったのだと思います。

職場が悪いと言うのではなく、私自身が集団が苦手なのです。

だから一人で仕事をする道を選びました。

ということは、私は自由に楽しく生きていきたいのです。

それが、私が「心から望んでいること」であり、本当の私なのだと思います。

ただ、私は不安に振り回されて、本当の自分を置き去りにしてしまっていたのですよね。

「仕事を増やしたい」「もっと安心したい」という目先の不安を埋めることに奔走し続けた結果、「人生の迷子」に陥りました。

そのことに気づかなかったことで、体調を崩していったということです。

あなたにとって安心できることは?

ここまで読んで、あなたはどんなことを感じますか?

少し立ち止まって考えてみてほしいのですが、今、あなたは自分の仕事が、人間関係が、生活が、どのようになれば安心できますか?

「もっとお金が欲しい」「上司に気に入られたい」「子どもにもっと勉強をしてほしい」など、なんでも良いので、思いつくものを挙げてみてください。

あなたが「心から望んでいること」は、どんな毎日を送ることですか?

では、次の質問をします。

あなたは、どんな毎日を送ることを望んでいますか?

あなたが心から望むのは、どんな生活でしょうか。

ここで意識してほしいのは、「上司が不機嫌にならなければ」「子どもがもっと勉強をしてくれたら」といった、「相手がこうあれば」という条件は外してください。

相手がどうだろうと関係なく、あなた自身がどういう生活が送れたら、どんな過ごし方ができたら幸せなのか。

どんな気持ちで、どんな一日が過ごせたら嬉しいのか、幸せなのか、心地よいのか。純粋に考えてみましょう。

コロナの前は、年に何回か旅行していました。旅行が楽しみで、仕事を頑張ってお金をためていました。ああいう生活が好きでした。でも、コロナで旅行に行けなくなり、その間に昇進して看護師長になり、それから頭の中は仕事のことばかりでしたね。

そういえば、まだ学生だった頃は、夜はのんびりとライブのDVDを見て過ごしていたな…。ああいうふうに、なんにも考えずに好きなことにのめりこめる時間が好きだったな。

ここまで整理してみると気づくかと思いますが、「安心したいこと」と「心から望んでいること」は違うことが多いのです。

でも、日々忙しく過ごしていると、いつの間にか「安心したいこと」を「自分が心から望んでいること」だと思い込み、疑わないようになってしまうのですよね。

「安心したいこと」を「心から望んでいること」だと思いこむと、人生の迷子になる。

無自覚に「安心するための行動」を重ねるほどに、自分が本来望んでいる生活とはかけ離れていきます。

でも、それが自分の望みだと思いこむわけですから、迷子のような状態に陥って日々が停滞していきます。

冒頭に紹介した看護師さんの悩みは、その典型です。

「こうするべき」「ねばならない」で自分を縛りストレスを積み重ね、心身の不調に陥っている可能性が考えられます。

大切なのは、自分が本当は何を望んでいるのかをきちんと整理して、軸を整えていくことです。

決して「安心したいための行動」が良くないのではありません。

「安心したいこと」と「心から望んでいること」の区別をつけることが必要なのです。

例えば、

お金がなくなるのは不安だから今の仕事は辞められないんだけど、私はもっと残業のない仕事がしたいんだよね。なにせのんびりするのが好きだから。


というふうに考えることができれば、体調が優れない時に「無理をしているからだな」とストレスを特定することができます。

ストレスが特定できれば、より現実的に葛藤することができますから、「何が原因なのかわからない」という状況に比べればだいぶ良いことはわかるでしょう。

最後にもう一度質問します。

あなたが心から望むのは、どんな生活でしょうか。

一度足を止めて、じっくりと自分の気持ちに向き合ってみてください。

AIDERS 代表 山﨑正徳

公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。自身の燃え尽き・離職等の経験から、対人援助職のメンタルヘルスを向上させることを目的にAIDERS(エイダーズ)を開業。これまで、延べ4000人以上の対人援助職に対してバウンダリーやクレーマー対応などをテーマに講演を行っている。

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